コリニアf -2f 干渉計改善による光コムの効率的なキャリアエンベロープオフセットロック

石澤 淳 西川 正 中野秀俊
量子光物性研究部

 近年のレーザ技術の進展により、従来技術では制御不能で、不確定であったパルス間の搬送波包絡線位相のスリップ量(キャリアエンベロープオフセット、もしくはCEO)が新たに精密制御可能になった。また、CEOロックしたモード同期レーザは周波数領域で数百THzの周波数領域にわたって、高確度に周波数が確定した光周波数コムとなっている。光周波数コム1本1本の位相と振幅を自在に制御できれば、光の完全な任意電界波形整形が可能になり、物質のコヒーレント制御を行うための有用な光源になると期待できる。
 光周波数コム1本1本の分離制御を実現する為にはアレイ導波路回折格子で分離可能な10 GHz以上のレーザの高繰り返し化が必要となる。その際、高繰り返し化により1パルス当りのエネルギーが低くなる為、より低いパルスエネルギーでCEO検出と制御を可能にすることが重要である。これまで我々は、非線形性の大きなテルライトフォトニック結晶ファイバ(PCF)と第二高調波発生効率が高い分極反転LiNbO3リッジ導波路を用いて230 pJのファイバ入力パルスエネルギーでCEOロックすることに成功した[1]。しかし、テルライトPCFへのレーザ光の結合効率が悪く、約1 nJのレーザ出力が必要であった。今回、テーパー化したファイバとテルライトPCFを角度付きV溝接続することでレーザ光のPCFへの結合効率を改善し、遅延機構を用いない簡素なコリニアf -2f 干渉計を用いる光学系(図1)を構築することによって、従来記録600 pJ[2]を更新する、500 pJの低いパルスエネルギーでCEOロックすることに成功した(図2)[3]。我々が提案した方法は低いパルスエネルギーでCEOロックに有用であり、かつ非常に簡素化された光学系を用いるため長時間の安定性に優れていると考えられる。

[1] A. Ishizawa et al., Opt. Express 16 (2008) 4706.
[2] I. Hartl et al., Opt. Express 13 (2005) 6490.
[3] A. Ishizawa et al., CLEO/IQEC 2009, Baltimore, U.S.A. (May 2009).
 

図1  低パルスエネルギーでCEOロックするための光学系配置図。 SMF: シングルモードファイバ TEC: 熱拡散。
図2  (a) CEOロックしたときのCEO干渉信号。 f0はCEO周波数、frは繰返し周波数
(b) 基準信号とCEO干渉信号の差分信号(右図)。

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】