神経活動とマグネシウム

鳥光慶一
機能物質科学研究部

 生体機能において、マグネシウムはカルシウム同様重要な役割を担っている。マグネシウムの作用を理解することは、神経活動の制御において極めて有益であると考える。中枢神経系の神経活動においては、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸のNMDA受容体に対する抑制作用などが広く知られているが、神経機能との関連性を示す研究は未だ多くないのが現状である[1]。本研究では、ラット大脳皮質および海馬の初代培養神経細胞に対する低濃度マグネシウムの影響を、フローサイトメーターを用いた光学的電位測定及び、共焦点レーザ顕微鏡を用いた細胞内カルシウム測定により検討した。
 図1に大脳皮質細胞の膜電位に対するマグネシウム濃度依存性を示す。膜電位計測には、脱分極により蛍光強度が増加するオキソノール系の蛍光色素DiBAC4(3)を用いた。通常のマグネシウム濃度である 2 mMから、濃度の低下とともに膜電位は増加し、脱分極状態になることが明らかとなった[2, 3]。また、細胞内カルシウム濃度測定により細胞の発達とマグネシウムの関連性について調べたところ、培養開始後12日目でマグネシウム濃度に対する応答がピークを迎え、それ以降は徐々に減少すること、そして0.7 mM前後を境に反応が大きく変わるものの、0.5 - 0 mMの低濃度領域では培養日数に依らず応答が観測されること等が明らかになった(図2)[2, 3]。
 同様の傾向は海馬神経細胞でも観測されるものの、マグネシウム濃度に対する応答のピークが異なるなど、部位(大脳皮質と海馬等)によるマグネシウム作用の違いが認められた[3]。発達過程での応答性の違いを考慮すると、受容体等の分布が異なることなどが示唆される。今後さらに、細胞内マグネシウム濃度の測定を進め、神経活動と細胞内マグネシウム濃度の関連性について研究を進めていく予定である。

[1] K. Torimitsu, N. Kasai, and Y. Furukawa, Clin. Calcium 14 (2004) 26.
[2] 古川、鳥光、マグネシウム27 (2008) 75.
[3] Y. Furukawa, N. Kasai, and K. Torimitsu, Magnes. Res. 22 (2009) 174S.
 

 
図1  大脳皮質細胞の膜電位に対する
マグネシウム濃度依存性。
図2  細胞内カルシウム濃度測定による発達と
マグネシウム濃度相関(大脳皮質細胞)。

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