0.18 µm CMOSプロセスを用いた
ブレインマシンインターフェース用LSIチップの研究

島田明佳 山口昌也* 中野誠彦* 鳥光慶一
機能物質科学研究部 *慶應義塾大学

 近年、脳と機械の情報通信を目指すブレインマシンインターフェースの研究が、神経科学や医療分野で進んでいる。そのほとんどは片方向通信であるが、我々は多点電極(MEA)を介した脳と機械の相互通信が可能なブレインマシンインターフェースの研究を進めている[1]。この相互通信の実現には、脳の情報処理メカニズムの解明とともに、脳に対する電気的刺激信号の印加と脳の神経細胞由来の電気的活動信号計測が可能なデバイスが必要となる。しかも生体への装着による生体のストレス軽減のため,こうしたデバイスは無線化および小型化が望まれる。今回は0.18 µm CMOSプロセスを用いて小型で可搬性の高い16 ch刺激信号印加・活動計測システムを2.5 mm角のLSIチップで実現した[2]。
 本チップは、デジタル・アナログ回路を混載することにより、刺激信号印加・活動計測システムのワンチップ化を行っている。チップ構成は、図1のように刺激印加部(Stimulation Block)、計測部(Measurement Block)、モード切替え部(Mode Change Block)の3つに分かれている。刺激印加部は最小時間幅10 µs、4 bitの解像度の矩形波を組み合わせることにより、任意の刺激信号波形が生成できる。計測部では、16 ch前置増幅器により増幅された電気的活動信号を、マルチプレクサ(MUX)により40 kS/sのサンプリングレートで1 chに時間多重できる。モード切替え部では、刺激印加部のデータを元に生成された制御信号により、刺激印加と増幅の2つのモードを切り替えることができる。図2は、MEA上に分散培養されたラット大脳皮質由来の神経細胞に対してある電極を介して刺激信号を印加したときの応答を、別の電極によって計測した結果を示す。刺激信号印加後数十 ms後に励起された神経細胞の電気的活動が計測できていることを示している。
 今後はLSIチップに対する入出力の無線化を行い、より可搬性を高めたブレインマシンインターフェースの実現を目指す。

[1] A. Shimada et al., SFN 2008, Washington, D.C. U.S.A. (Nov. 2008).
[2] M. Yamaguchi et al., Jpn. J. Appl. Phys. Accepted.
 

 
図1  16 ch刺激信号印加・活動計測用LSIチップの回路図。
図2  刺激信号印加により励起された神経細胞の
電気的活動。

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