金フローティングゲートを共有したシリコン細線イオン感応トランジスタ

西口克彦 山口徹 藤原聡
量子電子物性研究部

 電界効果トランジスタ(FET)は高感度電荷計としての機能を有するため、イオン感応FET (ISFET)と称され、その高速動作や高集積度といった特徴を生かしPHセンサ、バイオ・センサなどといった応用に利用されている。これまで我々はナノメートルオーダのシリコン細線をチャネルとするFETを作成し、室温での単一電子検出に成功している[1]。このFETを高感度ISFETとして利用することで単一分子の検出などが期待できるが、通常は多数のノイズ環境下で利用されることから、そのノイズ対策が必要となる。今回は、ノイズ環境下での高精度な単一分子検出を目指し、ISFETを金フローティングゲートで容量結合した。フローティングゲートを共有するISFETで同時に発生する電流変化をモニタすることで、金に付着した物質に起因する信号を特定できることを確認した[2]。
 素子はSOI基板を用いて作製し、ベース基板をバックゲート電極とする4つのISFETで構成される(図1)。ISFETのSOIチャネルは非常に小さい(数十 nm)ため、単一電子検出が可能な感度を持つ。3本のSOIチャネル上部にTi(厚さ: 5 nm)を挟んでAu (20 nm)を形成することにより、Auに付着した帯電物質をISFETの電流変化として検出する。今回は、Octadecane Thiol (ODT)を分散させたテトラヒドロフラン(THF)をスポイトで素子表面に落とし、4つのISFET電流I1、I2、I3、I4をモニタした。THFを素子表面に落して完全に蒸発させたところ、ODTの濃度に応じて電流−バックゲート電圧特性がシフトした。負に帯電したODTがISFETチャネル上部に付着したためと考えられる。次に、THFが蒸発する間、一定のゲート電圧で電流をモニタしたところ、Auフローティングゲートがチャネルを覆っているI2, I3およびI4では、同時に発生する電流変化(図2の矢印部分)が観測され、I1では確認されなかった。これは、帯電物質がAuゲートに付着し、Auと容量結合した3つのISFETに対してのみ影響を与えたためと考えられる。チャネルがAuと容量結合していないI1と一緒に比較することで、バックグラウンド・ノイズに埋もれたAuゲート上の物質による信号を特定することが可能となる。一方、I1は量子化された値で揺らいでおり、単一のODTを検出している可能性を示している。

[1] K. Nishiguchi, Jpn. J. Appl. Phys. 47 (2008) 8305.
[2] K. Nishiguchi, Appl. Phys. Lett. 94 (2009) 163106.
 

 
図1  金フローティングゲートを共有したISFETの構造
(a) 電子顕微鏡写真。(b)鳥瞰図。
図2  ODTを含むTHFを素子に落とした時、
ISFETに流れる電流の変化。

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