トンネル分光による薄層SOI-MOSFET内サブバンドの観測

登坂仁一郎 西口克彦 影島博之 小野行徳 藤原聡
量子電子物性研究部

 電界効果トランジスタの微細化に伴い、古典的なトランジスタの動作原理は量子効果の顕在化により破綻しつつある。一方、量子効果を有効に利用し、従来のシリコンデバイスにはない機能を付加する試みが検討されて始めている[1, 2]。このため、最も基本となる量子効果の1つである閉じ込め効果をシリコンにおいて理解・検証していくことは重要である。今回、我々はシリコン酸化膜に閉じ込められた薄層SOI (silicon-on-insulator) 内に形成された高次に及ぶサブバンドをトンネル分光により観測することに成功した[3]。
 サブバンドの観測は、2層ゲート構造を持つ 2 nmのトンネル酸化膜(tOX)を有するSOI-MOSFET(図1)において行った。図2にSOI膜厚 25 nmおよび10 nmのデバイスの下層ゲート電流(ILG)−下層ゲート電圧(VLG) 特性を示す。VLG > 0において、dILG/dVLGに明瞭な構造は確認できないが、VLG < 0において、dILG/dVLGに細かいピーク構造が確認できる。SOIの膜厚の減少に伴いピーク間隔が増加しており、観測されたピーク構造は、閉じ込めによりSOI内に形成されたサブバンドに起因していることを示している。より定量的にピーク構造の起源を探るため、薄層SOI内の固有状態の計算を行った[図3(a)]。その結果、下層ゲートフェルミ面とSOIの4重縮退谷の固有値が交わる下層ゲート電圧で実験のピーク位置が良く再現された[図3(b)]。4重縮退谷は2重縮退谷に対し谷縮退度が高く、また面内運動有効質量が大きいため、より大きな状態密度を有する。また、トンネル電流はトンネル確率と終状態密度に比例するため、実験結果のピーク構造は、4重縮退谷へのトンネルが際立って観測されたためと捉えることが可能である。これらの結果から薄層SOI-MOSFETの固有状態が、ゲートを用いたトンネル分光により観測可能であることを明らかにした。

[1] K. Uchida et al., J. Appl. Phys. 102 (2007) 074510.
[2] S. Saito et al., Jpn. J. Appl. Phys. 45 (2006) 679.
[3] J. Noborisaka et al., Appl. Phys. Lett. 96 (2010) 112102.
 

図1  (a)デバイス構造図。
(b) 透過電子顕微鏡像。
図2  トンネル電流およびコンダクタンス
測定結果。(a) SOI = 25 nm。
(b) SOI = 10 nm。
図3  (a)サブバンド計算結果。
(b) トンネル電流計算と実験の比較。

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