光による結合ナノ機械共振器の周波数チューニング

岡本創 小野満恒二 山口浩司
量子電子物性研究部

 昨今、結合機械共振器に関する研究が注目を集めている。同期現象などの興味深い物理現象に加え、振動モードの局在化を利用した質量センサなど、その様々な応用可能性に期待が高まっている[1-3]。結合機械共振器における振動の結合状態は機械共振器間の固有振動数の差によって決まる。よって構成共振器の固有振動数を個別に制御することが結合機械共振器を取り扱う上で非常に重要となる。我々は、光照射による熱応力効果により機械共振器の固有振動数を変調し、結合共振器における振動の結合状態を制御することに成功した。また、本手法により機械共振器同士の完全な結合状態を実現した[4]。
 実験に用いた素子は長さ40 µm、幅10 µm、厚さ0.8 µmの2つの両持ち梁から成る(図1)。2つの梁はエッチングによって形成されるオーバーハングを介して機械的に結合している。梁はAlGaAs/GaAs超格子(上層)、n-GaAs(中層)、i-GaAs(下層)の3層を有し、梁に蒸着した金電極とn-GaAs層の間に交流電圧をかけることにより、圧電的に2つの梁を個別加振することができる。梁の振動は照射レーザ (He : Ne) の反射光をドップラー干渉計により検出する。また、照射レーザ強度の調節により、梁のばね定数を変化させ、機械共振器の周波数をチューニングすることができる。測定は室温・真空中で行った。
 梁1を加振した場合の梁2の共振特性におけるレーザ強度依存性を図2に示す。図には2つの共振ピークが見られるが、これらは2つの梁の振動が互いに結合した2つの結合振動モードである。そのモード周波数はレーザ強度(P)に依存し、P = 64 µWにおいて2つのモードは反交差する(図2)。この反交差点において2つの梁は完全に結合し、低周波側モードと高周波側モードはそれぞれ完全な対称結合振動と完全な反対称結合振動となる。つまり本手法により、結合ナノ機械共振器の完全なチューニングが可能となる。チューナブルな結合ナノ機械共振器の実現は、高感度センサ応用や結合機械共振器のダイナミクスを探る上で重要となる。

[1] S. Shim et al., Science 316 (2007) 95.
[2] C. Pierre, J. Sound Vib. 139 (1990) 111.
[3] M. Spletzer et al., Appl. Phys. Lett. 88 (2006) 254102.
[4] H. Okamoto et al., Appl. Phys. Express. 2 (2009) 062202.
 

図1  結合ナノ機械共振器とセットアップ概略。
図2  結合振動モードのレーザ強度依存性。

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