νT=1 二層系における真性エネルギーギャップと励起子凝縮

Paula Giudici 村木康二 熊田倫雄 藤澤利正
量子電子物性研究部

 2次元電子系2層を20-30 nm程度の距離で近接させた系(二層系)は、異なる層にいる電子間の相互作用により1層系にはない特異な性質を示す。特に2次元面に垂直に加えた磁場によって生じる巨視的に縮退した離散エネルギー準位(ランダウ準位)を、各層で電子がちょうど半分ずつ満たすようにすると(各層の占有率1/2、総占有率νT = 1)、2層間の距離d が小さく層間の相互作用が強い場合、励起子超流動と考えられる2層で逆向きの電流が無散逸に流れるなどの興味深い現象が報告されている[1]。一方、層間距離d が十分大きく2層が独立にふるまう場合には系は金属的な性質を示し、電子が磁束量子と結合して生じた複合粒子が各層でフェルミ面を形成しているものと考えられている。
 これら2つの大きく異なる電子状態間で起こる量子相転移の性質は理論的にも実験的にも興味を引いてきたが、最近の我々の研究によって、GaAs二重量子井戸に垂直に磁場を加えるという通常の実験条件では金属相が完全にスピン偏極していないため、実験的に観測される相転移はゼーマンエネルギーに支配された1次転移となり、スピン自由度が存在しない場合に予想される量子相転移とは性質が異なることが明らかになった[2]。本研究では、試料に対して磁場を傾けゼーマンエネルギーを大きくすることで、スピン自由度が関与しない本来の相転移の性質を調べた[3]。ゼーマンエネルギーを大きくしていくと励起子凝縮相のエネルギーギャップは面間の電子間距離dと面内の電子間距離lBの比だけで決まる値(真性エネルギーギャップ)をとり(図1)、その大きさは金属相と励起子凝縮相のエネルギー差の2倍に一致した(図2)。この結果は、この相転移が2次転移であり、凝縮相が金属相から励起子形成によって生じていることを示唆している。

[1] M. Kellogg, J. P. Eisenstein, L. N. Pfeiffer and K. W. West, Phys. Rev. Lett. 93 (2004) 036801.
[2] P. Giudici, K. Muraki, N. Kumada, Y. Hirayama, and T. Fujisawa, Phys. Rev. Lett. 100 (2008) 106803.
[3] P. Giudici, K. Muraki, N. Kumada, and T. Fujisawa, Phys. Rev. Lett 104 (2010) 056802.
 

図1  d/lBの値における励起子凝縮相のエネルギー
ギャップのトータル磁場依存性。
図2  エネルギーギャップのd/lB依存性と二状態間
のエネルギー差x 2(実線)。

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