超伝導磁束量子ビット・共振器系における制御NOTゲートの提案

齊藤志郎 Todd Tilma* Simon J. Devitt* 根本香絵* 仙場浩一
量子電子物性研究部 *国立情報学研究所

 超伝導量子ビットは、操作性、拡張性、コヒーレンス時間の観点から、量子コンピュータの基本要素である量子ビット候補として注目を集めている[1]。我々は、超伝導共振器を量子バスとして用い、1つのバスに複数量子ビットが結合している系[図1(a)]に着目した。この系では、隣り合った量子ビットのみが結合する1次元状に並んだ量子ビット列とは異なり、離れた量子ビット間のゲート操作が容易になるという利点がある。我々は、この系において制御NOTゲートを実現するパルス配列を提案し、そのゲート精度を評価した[2]。その結果、2量子ビットの場合98.8 %、3量子ビットの場合98.0 %のプロセスフィデリティFP [3]を得た。
 図1(a)に超伝導LC共振器と結合した、超伝導磁束量子ビットの模式図を示す。各量子ビットは、相互インダクタンスを介して共振器と結合し、マイクロ波パルス照射用の制御ラインを有する。この結合により、各量子ビットの2準位間の遷移周波数は、共振器の状態に応じて僅かに変化する。我々は、この変化を利用した制御NOTゲートを提案した。図1(b)は、2量子ビットの場合のパルス配列である。パルスの特性は、上から周波数 (C: Carrier frequency, BSB: Blue sideband frequency)、長さ(π/2, π)、位相(0, π, φ)で表されている。制御ビットと共振器に対するBSBパルスの間隔Tと位相φを最適化することにより、デコヒーレンスのない理想的な条件下で、FP=98.8 %を得た。本研究では、制御ビット、標的ビット、共振器の周波数をそれぞれ、6 GHz、5 GHz、10 GHz、各ビットと共振器の結合を0.1 GHzとした。さらに、7 GHzの周波数を有する第3の量子ビットを加えた場合でも、非常に高いFP = 98.0 %を示し、本提案の拡張性の高さが分かる。制御NOTゲートに要する時間は200 nsであり、磁束量子ビットのコヒーレンス時間4 µsと比較すると十分短い。実際に、デコヒーレンスの影響を考慮すると(図2)、実験で得られている最高の条件(Q = 1×106, Γ1 = Γ2 = 0.25 MHz)では、90.3 %のFPを得た。さらなるFPの向上にはコヒーレンス時間の改善、系の設計・パルス形状の最適化が望まれる。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] J. Clarke and F. K. Wilhelm, Nature 453 (2008) 1031.
[2] S. Saito, T. Tilma, S. J. Devitt, K. Nemoto, and K. Semba, Phys. Rev. B 80 (2009) 224509.
[3] I. L. Chuang and M. A. Nielsen, J. Mod. Opt. 44 (1997) 2455.
 

 
  
図1  (a) 超伝導磁束量子ビット・共振器系。
(b) 制御NOTゲートを実現するパルス配列。
図2  プロセスフィデリティへのデコヒーレンスの影響。

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