半導体量子ドットにおける近藤効果のスピン蓄積による制御

小林俊之1 鶴田尚英1, 2 佐々木智1 藤澤利正1 都倉康弘3 赤崎達志1, 2
1量子電子物性研究部 2東京理科大学 3量子光物性研究部

 半導体量子ドットに閉じ込められた局在電子のスピンは、周囲の伝導電子のスピンと強く相互作用することで、スピン一重項のコヒーレントな量子多体状態を形成する。これは近藤効果として知られ、温度、電場、磁場などのパラメータに敏感に反応して状態が変化することが知られている。近藤効果では局在電子と伝導電子のスピンが共に重要な役割を果たすため、伝導電子のスピンが片方に偏極すると近藤効果は著しく抑制されることが予想される。しかしながら、100 %近い高いスピン偏極状態を形成する技術はこれまで確立されておらず、伝導電子のスピン蓄積が、近藤効果に及ぼす影響についてこれまで実験的に調べることはできなかった。今回、我々は強磁場中の量子細線におけるスピンフィルタの特性を向上させることで、90 %以上スピン偏極したスピン偏極電流を生成した。また量子ドットの片方の電極に上向きスピンのみを蓄積することで、近藤効果が連続的に変調される様子を観測することに成功した[1]。
 近藤効果では、フェルミエネルギーの伝導電子が共鳴的に局在電子と相互作用するため、電極の化学ポテンシャルµの位置に近藤状態密度(KDOS)が形成される(図1)。KDOSはµと連動しているため、量子細線から量子ドットにスピン偏極電流を注入し、上向きスピンのµのみを変化させると、上向きスピンのKDOSのみがシフトしKDOSのスピン分裂幅が変化する。KDOSの位置は、量子ドットの微分コンダクタンス gD のピーク位置として測定することができた(図2)。

[1] T. Kobayashi et al., Phys. Rev. Lett. 104 (2010) 036804. 

 
図1  (a)デバイスの走査電子顕微鏡像と測定方法。
ゲート電極により左側に量子ドット、右側に量子
細線が形成される。(b)-(d)量子細線の伝導度
gEを0、e2/h、2e2/hに固定してVEを印加した場
合の化学ポテンシャルµと近藤状態密度ρ
図2  近藤状態密度(KDOS)に起因する伝導度ピーク
がVEに対してシフトする様子。量子細線の伝導
度 gEe2/hの場合はVEによって上向きスピン
µのみがシフトするため、上向きスピンに起因
した伝導度ピークのみがシフトする。

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