表面弾性波によって形成したダイナミック量子ドットの発光特性

寒川哲臣 眞田治樹 後藤秀樹
量子光物性研究部

 量子井戸構造 (QW) に表面弾性波 (surface acoustic wave: SAW) を伝搬させることによって、1次元または2次元の横方向バンド構造変調を実現することが可能となる[1, 2]。本研究では、直交方向の2つのSAWが干渉することによって形成されるGaAs/AlAsダイナミック量子ドット (dynamic quantum dot: DQD) における励起子発光ダイナミックスに注目している。
 GaAsなどのピエゾ物質においては、SAW伝搬に伴い、歪によるバンドギャップの変化が起きることに加えて、強いピエゾポテンシャルの変調が生じることが知られている。また、結晶構造のD4d対称性のために、直交したSAWの干渉によって2種類のDQDアレーが形成されることが報告されている[3]。図1(a)は格子変位の面内成分の模式図であり、黒または灰色の○はピエゾポテンシャルの変調によって形成されたポテンシャルドットの位置を、黒または灰色の□は歪によりバンドギャップが極小・極大となる歪ドットの位置を示している。
 SAW (820 MHz) と同期した励起パルス光源を用いることにより、動いているDQDからのフォトルミネッセンス (PL) の空間分布を低温 (4K) において測定した[1]。図1(b)に、6.3 nmのQW層からのPLピーク(SAWを印可しない場合のピークエネルギーは1.630 eV)よりも低エネルギー側となる1.623 eVの発光に対する空間分布の測定結果を示す。PL偏光度(ρ)は ρ = (PL[1-10] - PL[110]) / ( PL[1-10] + PL[110]) と定義し、PL[1-10] 、PL[110]は図1(a)に示すようにそれぞれSAW伝搬方向のPL偏光成分である。図1(b)、(c)ともに四角格子状のドットアレーが現れているのが分かる。図1(b)の強いPL発光を示す位置はバンドギャップが広がった歪ドット[図1(a)における黒い□]に対応する。また、図1(c)において正(負)の偏光度を示す位置は、図1(b)のバンドギャップが広がった歪ドット間の[1-10]([110])方向の鞍点に位置しており、図1(a)におけるポテンシャルドットの位置(黒または灰色の○)に対応している。

[1] T. Sogawa et al., Phys. Rev. B 80 (2009) 075304.
[2] T. Sogawa et al., Appl. Phys. Lett. 91 (2007) 141917.
[3] F. Alsina et al., Solid State Commun. 129 (2004) 453.
 

図1  (a) 格子変位の面内成分の模式図。○はポテンシャルドット、□は歪ドットを示す。 (b) PLピークよりも
低エネルギー側発光に対する空間分布の測定結果。 (c)PL偏光度の空間分布測定結果。プラス符号
は[1-10]方向の偏光に対応。

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