直径が制御されたフリースタンディングGaAsナノワイヤと光学特性に現れる量子効果

Guoquiang Zhang 舘野功太 眞田治樹 後藤秀樹
量子光物性研究部

 半導体ナノワイヤ(NWs)は半導体ナノ構造の1つであり、新しい電子・光デバイス実現に貢献する可能性があるため、注目を集めている。NWは、新しいナノ構造を構成する基本的な構造体となることや、特徴的な量子細線構造を実現することも期待されている。フリースタンディング型と呼ばれるNWの新しい応用を追求するため、直径が制御されたGaAs NWを作製し、その光学特性を調べ、明瞭な量子効果の観測に成功した。
 NWは、有機金属気相成長装置を用いて、金を触媒とする気相−液相−固相(VLS)モードで作製した[1]。触媒として直径が制御された金粒子 (5, 10, 20, 40, 60 nm) を用いることで、GaAs NWのサイズ制御を試みた。作製したNWの透過電子顕微鏡写真を図1に示す[2]。NWの成長温度を、通常の気相成長で用いられる温度より低くすることで、格子欠陥の極めて少ないNWの作製に成功した[図1(a)-(d)]。また、図1(e)から明らかなように、NWの直径が金粒子のサイズに応じて異なっていることから、NWのサイズ制御が可能であることが分かった。図2は、このNWの光学特性を顕微フォトルミネッセンス (PL) によって調べた結果である[3]。図2(a)は単一NWのPLスペクトルで、金粒子サイズが小さくNWの直径が小さいほど発光エネルギーが大きくなっており、量子閉じ込め効果が明瞭に現れている。図2(b)は、偏光分離PLスペクトルである。PLは偏光方向と、ナノワイヤの方向に強く依存していることが分かる。この結果から、NWでは、従来の量子細線構造とは異なり、屈折率と量子閉じ込め効果の両方の異方性を持つ構造であることが示唆される。以上の結果は、GaAs NWの光学特性のサイズ効果や、量子細線構造での新規物性の解明に貢献することが期待される。

[1] G. Zhang et al., J. Appl. Phys. 103 (2008) 014301.
[2] G. Zhang et al., Appl. Phys. Lett. 95 (2009) 123104.
[3] G. Zhang et al., Jpn. J. Appl. Phys. 49 (2010) 015001.
 

図1  GaAs NWのTEM写真。(a) 単一NW (b),(c)
単一NW中心と先端付近の高倍率像。
(b)の挿入図は回折像で、Zinc-Blend構造を
示している。(d) NW側面の高倍率像。
(e)サイズの異なる金粒子を用いたNW。
 
図2  (a) 3種類の金粒子を用いて成長したGaAs NW
のPLスペクトル。(b) 偏光分離PLスペクトル、
赤い破線は、バルクGaAsのPLエネルギー。

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