二層フォトニック結晶による巨大な光力学結合効果の実現

Young-Geun Roh 田辺孝純 新家昭彦 谷山秀昭 倉持栄一
松尾慎治* 佐藤具就* 納富雅也
量子光物性研究部 *フォトニクス研究所

 光と物質間の力学的相互作用は物理学において重要なテーマであり、近年フォトニック構造における光・機械共振モード間の結合が注目されている。我々は2006年に空気層を有する二層構造のフォトニック結晶にいて巨大な輻射力が生成できることを理論予測していたが[1]、本研究ではその二層構造のフォトニック結晶を世界で初めて実現し、巨大な光力学結合効果が発現することを観測した[2]。
 この研究では、空気層200 nmを有する2枚のInP層(厚さ200 nm)に周期750 nm、穴径540 nmの正方格子のフォトニック結晶を電子ビーム描画、ドライ・ウエットエッチング、超臨界乾燥手法で作製した(図1)。30×20 µmの領域に作製された二層フォトニック結晶に対して垂直入射光の反射スペクトルを測定したところ、1567 nm, 1457 nm付近に二層フォトニック結晶の2つの共鳴モード(面に垂直な軸に対して、対称および反対称のパリティを持つモード)の存在が確認された。図2に対称モードの反射スペクトルの入力パワー依存性の測定結果を示す。入力パワーを増加すると、共鳴波長が大きくredshiftし、13 mWの入力パワーに対して0.9 nmのシフトが観測された。このシフトは対称共鳴モードで生じる輻射力(引力)によるスラブの変位が原因と考えられ、各スラブの1.8 nmの変位に相当する。反対称モードに関しては、逆のblueshiftが観測されていることから、このシフトが熱光学効果によるものではないことが確認された。上記の変位に対応する力は10.8 nN、振器内の単位エネルギーで発生する力は F/U = 0.4 µN/pJ と見積もられ、非常に大きい光力学結合効果が得られていることが分かった。光力学結合効果が大きいため、二層構造の機械振動モード[図3(a)]の微小なブラウン運動も観測されている[図3(b)]。

[1] M. Notomi et al., Phys. Rev. Lett. 97 (2006) 023903.
[2] Y. Roh et al., Phys, Rev. B 81. (2010) 121101(R).
 


図1 

作製した二層構造のフォトニック結晶のSEM写真。
 
図2  (a) 対称モードの反射スペクトル。
(b),(c) 各モードの同時反射測定結果 (Pin = 13 mW)。
 
図3  (a) 二層構造の基本振動モード。
(b) ブラウン運動による反射光の変調スペクトル。

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】