二光子吸収を用いた1.55 µm帯全シリコンフォトニック結晶受光器

田辺孝純 倉久史 谷山秀昭 新家昭彦 納富雅也
量子光物性研究部

 シリコン(Si)は電子集積回路に広く用いられているが、潜在的に光集積回路にも適した材料である。実際に通信波長帯の光に対しては透明であるために、特性の良い導波路や光共振器がSiチップ上に作製されるようになった。しかし通信波長帯の光に対しては透明であるため、そのままでは1.55 µm帯の光受光器は作製できない。そこで、ゲルマニウムをSi上に集積する手法が盛んに研究されているが、ゲルマニウムとSiは4 %の格子不整合を有し、そのために暗電流を低減させることが簡単ではない[1]。また、Siにイオン注入して欠陥準位を生成し、それを介して光を検出する全Si検出器も研究されているが、欠陥に起因する暗電流が大きい[2]。一方、全Siで光検出器を作製できれば、極めて優れた結晶性を利用した低暗電流な検出器を作製できると期待されるが、1.55µmの光を検出するためには二光子吸収(TPA)が必要であり、その効率は高くない。そこで、極めて強い光閉じ込めを有するフォトニック結晶(PhC)微小光共振器を用いて微小な光の検出を実現させた[3]。
 図1に示すpin構造を集積したSi-PhC微小光共振器を作製した。作製した微小光共振器のQ値は4.3×105で透過率は24 %だった[図2(a)挿入図]。-3 Vの逆電圧を印加時の暗電流は僅か-15 pAであった。この条件で測定した光電流を図2(a)に示す。共振器の光の閉じ込めが極めて強いため、僅か10-8 Wの光入力で二光子吸収電流が検出された。一光子で電子が1つ生成する条件をQE=100 %とすると1.17 µWの光入力の時にQE10 %が得られた。透過率を考慮すると共振器中の光の約44 %が吸収されたことになる。全Si検出器においてこのように高い吸収効率が得られるのはPhCの高Q 値のおかげである。
 次に本検出器を用いて0.1 Gb/sの光信号の検出実験を行った[図2(b)]。共振器に共鳴する波長の光のみ電気信号として検出された。本実験結果はこの素子が、シリコンチップ集積受光器として期待できることを示している。

[1] S. Assefa, F. Xia, and Y. Vlasov, Nature 262 (2010) 80.
[2] M. Geis et al., Opt. Express 17 (2009) 5193.
[3] T. Tanabe et al., Appl. Phys. Lett. 96 (2010) 101103.

図1  作製したpin集積フォトニック結晶微小光
共振器ディタクタの図。
 
図2  (a) 入力光パワー対光電流および透過
スペクトル。(b) 0.1-Gb/s受光実験。

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