MBE法によるロバストな超伝導特性を示すPr2Cuo4の作製

山本秀樹 クロッケンバーガー賢治 松本理* 山神圭太郎 三橋将也 内藤方夫*
機能物質科学研究部 *東京農工大学

 銅酸化物高温超伝導体は、一般にドープされたモット絶縁体(電荷移動絶縁体)と考えられているが、我々は、T’-RE2-xCexCuO4(REは希土類イオン)の母物質(x = 0)が超伝導性を示すことを報告している[1、2]。この違いは、T’構造銅酸化物の物性が複雑な酸素化学によって支配されていることに起因すると考えられる。母物質が超伝導体か絶縁体かは、高温超伝導機構を理解する上で本質的で、高品質試料を用いた更なる研究が必要であるとの観点から、我々はMBE成長したPr2CuO4の超伝導化に取り組んだ。
 Pr2CuO4の超伝導化には、二段階アニール法による成膜後の還元処理が必要であったが、アニール条件の系統的な最適化により、Tc = 26 K (ΔTc < 0.5 K)で金属的な伝導特性(ρRT = 400 µΩcm, RRR = 10)を持つ試料が得られた(図1)。抵抗率は第2ステップのアニール温度がTred = 475-500ºC のとき最低のρ (30 K) 〜 40 µΩcmとなり、最高のTc 〜 26 KもTred = 500ºCの試料で得られた。図2に、試料表面に平行に磁場を印加して測定した磁化の温度依存性を示す。明瞭な反磁性信号(Tconset = 23 K) が観測されており、超伝導性がロバストなものであることが分かる。これは、特別なアニール法により、ほぼ理想的な酸素副格子が実現し、母物質の持つ本来の物性が現れたためと考えられる。このような観測結果は、T’構造を持つ銅酸化物の母物質は、必ずしもMott絶縁体(電荷移動絶縁体)ではないという最近の理論的な研究結果[3、4]とも整合する。

[1] O. Matsumoto et al., Phys. Rev. B 79 (2009) 100508R.
[2] H. Yamamoto et al., Solid State Commun. 151 (2011) 771.
[3] C. Weber et al., Nature. Phys. 6 (2010) 574; Phys. Rev. B 82 (2010) 125107.
[4] H. Das and T. Saha-Dasgupta, Phys. Rev. B 79 (2009) 134522.
 

    
図1  Pr2CuO4薄膜のρ-T特性のTred(2段階アニール法における第2ステップのアニール温度)依存性。試料は、Tredでのアニールに先立ち、第1ステップでPaO2 = 1 x 10-4 Torrの還元雰囲気下で、Ta = 750ºCでアニールされている。
図2  抵抗率測定で最も高いTcを示したPr2CuO4薄膜の磁化(M) - 温度(T)特性。膜厚1000Åの薄膜において、シールディング反磁性に加えマイスナー反磁性も明瞭に観測されている。

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】