MOVPE選択エピタキシを用いたGaNの核およびスパイラル成長機構の解明

赤坂哲也 小林康之 嘉数誠
機能物質科学研究部

 結晶の成長様式には核成長や螺旋成長モードがあることが知られており、一般的な結晶成長ではこれら2つの成長モードが混在している。本研究では、窒化物半導体のGaNに関して、純粋な核成長や螺旋成長モードを実現することにより、結晶の成長機構を実験的に明らかすることを検討した。
 転位密度が低いGaN(0001)基板の表面にSiO2マスクを形成した後、フォトリソグラフィにより1辺が8 µm(直径16 µm)の正六角形の開口部を開けた。これを基板とし、有機金属気相成長装置(MOVPE)を用いてGaN薄膜の選択エピタキシを行った。原料ガスは、アンモニアおよびトリメチルガリウムである。GaN薄膜の表面は原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。
 マスクの開口部内に螺旋転位や混合転位が全くない場合、純粋な核成長によりGaNのステップフリー面(1分子層の段差も存在しない平滑面)が形成された[1]。一方、マスクの開口部内に螺旋転位や混合転位が存在すると、これらの転位を中心に螺旋成長が起こり、表面には成長スパイラルが観察された(図1)。成長スパイラルのステップ間隔から、成長の駆動力である過飽和度を見積もることができる。図2に示したのは、このようにして求めた過飽和度と、核成長、および、螺旋成長モードにおける成長速度の関係をプロットしたものである[2]。過飽和度の増加に対して、螺旋成長速度は2次関数的に増加する一方、核成長速度は非常に小さな値を持つことが分かった。また、図中の実線、および、破線は、結晶成長速度の過飽和度依存性を予測するBCF理論[3]を用いた、螺旋成長、および、核成長速度のフィッテイング結果であるが、実験結果とよく一致している。
 本手法を用いることで、GaNのステップフリー面を実現することができたうえ、一回の成長で同一の基板上に、純粋な核成長と螺旋成長モードを実現し、その成長機構を詳細に検討することが可能となった。

[1] T. Akasaka et al., Appl. Phys. Express 2 (2009) 191002.
[2] T. Akasaka et al., Appl. Phys. Lett. 97 (2010) 141902.
[3] W. K. Burton et al., Phil. Trans. Roy. Soc. A 243 (1951) 299.
 

  
図1  成長スパイラル中心付近のAFM像。
図2  螺旋および核成長速度の過飽和度依存性。

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