単結晶ダイヤモンド基板上に成長したAlGaN/GaN HEMT

平間一行 谷保芳孝 嘉数誠
機能物質科学研究部

 AlGaN/GaN 高電子移動度トランジスタ(HEMT)は高周波高出力デバイスへの応用が期待されているが、現在その出力電力密度は基板材料の熱伝導率に大きく制限されている。単結晶ダイヤモンドは物質中最高の熱伝導率(〜22 W/cmK)を有しているため、ダイヤモンド上にAlGaN/GaN HEMTを作製できると、格段に高い高周波出力電力動作が期待できる。しかし、ダイヤモンドはダイヤモンド構造、窒化物半導体はウルツ鉱構造と結晶構造が異なるため、ダイヤモンド基板上への窒化物半導体の単結晶成長は非常に困難である。最近、我々は窒化物半導体の(0001)面と類似の原子配列を有するダイヤモンド(111)面方位基板を用いることにより、ダイヤモンド基板上への単結晶AlN(0001)薄膜の成長に成功した[1、2]。
 そこで単結晶AlNをバッファ層として用いて、半絶縁性ダイヤモンド(111)基板上にAlGaN/GaN HEMT構造を有機金属気相成長(MOVPE)法により成長した。まずダイヤモンド基板を水素雰囲気、高温1200°Cでサーマルクリーニングしてアモルファス表面層を除去し、続いてAlNバッファ層(180 nm)、クラックの形成を防ぐためのAlN/GaN多層膜(20周期 AlN:3 nm/GaN:17 nm)、GaN層(600 nm)、AlNスペーサ層(1 nm)、Al0.25Ga0.75Nバリア層(30 nm)、GaNキャップ層(4 nm)の順に成長した。X線回折測定によりダイヤモンド基板上のAlGaN/GaN HEMT構造の単結晶成長を確認した。AlGaN/GaN HEMT構造における二次元電子ガスの形成はホール効果測定により確認した。室温でのシートキャリア密度は1×1013 cm-2、電子移動度は730 cm2/Vsであった。
 ダイヤモンド基板上に作製したゲート長3 µmのAlGaN/GaN HEMTの最大ドレイン電流は220 mA/mmであり、良好なピンチオフ特性が得られた。図1はAlGaN/GaN HEMTの高周波小信号特性である。電流利得(|H21|2)、最大安定電力利得(MSG)、最大有能電力利得(MAG)の周波数依存性から得られた遷移周波数(fT)と最大発振周波数(fmax)は、それぞれ3 GHz、7 GHzであった。次にダイヤモンドとSiC基板上に同一構造のAlGaN/GaN HEMTを作製し、直流動作時のデバイス温度を比較した。図2(a)はデバイス温度測定のセットアップ、図2(b)(c)はそれぞれダイヤモンドとSiC基板上に作製したAlGaN/GaN HEMTの側面の温度分布である。直流2 W動作時にダイヤモンド基板上ではデバイス温度上昇が13ºC (23ºCから36ºC) であったのに対して、SiC基板上では23ºC (23ºCから46ºC)と 高く、ダイヤモンド基板がデバイス温度上昇の抑制に有効であることを確認した。デバイス温度のドレイン損失依存性から算出したダイヤモンド基板上のAlGaN/GaN HEMTの熱抵抗は4.1 Kmm/Wであり、SiC基板上のAlGaN/GaN HEMTの熱抵抗(7.4 Kmm/W)の約1/2である[図2(d)][3]。この低い熱抵抗は、単結晶ダイヤモンドの高い熱伝導率に由来する。以上より、単結晶ダイヤモンド基板上のAlGaN/GaN HEMTは高出力動作に有望なデバイス構造であることを確認した。

[1] Y. Taniyasu and M. Kasu, J. Cryst. Growth 311 (2009) 2825.
[2] K. Hirama, Y. Taniyasu, and M. Kasu, J. Appl. Phys. 108 (2010) 013528.
[3] K. Hirama, Y. Taniyasu, and M. Kasu, Appl. Phys. Lett. 98 (2011) 162112.
 

  
図1  ダイヤモンド基板上に成長した
AlGaN/GaN HEMTの高周波小信号特性。
図2  (a)デバイス温度分布測定のセットアップ
(b)直流2 W(3.2 W/mm)動作時のダイヤモンドと
(c)SiC基板上に作製したAlGaN/GaN HEMTの
デバイス温度分布 (d) デバイス温度のドレイン
損失依存性。

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