高度に集積化可能な人工細胞膜マイクロアレイ

古川一暁
機能物質科学研究部

 DNAチップに代表される生体分子のマイクロアレイは、網羅的解析を特徴とするバイオチップとして幅広く応用されている。ハイスループットなマイクロアレイの開発には、生体分子をその機能を維持したまま、集積度高く固体表面に固定化する技術が必須である。われわれはそのプラットフォームとして重要な人工細胞膜マイクロアレイの新規作製法を開発した。さらに本作製法を用いてバイオセンサを構築し、その動作を確認した。
 人工細胞膜の形成には、自発展開と呼ばれる固液界面における脂質分子の自己組織化現象を利用した。われわれの手法は、固体表面に作製した親水/疎水パターンによって、人工細胞膜の自発展開位置を制御することを特徴とする[1]。このとき、パターンを工夫することによって、マクロな領域から開始した自発展開をミクロな領域へ、それぞれの成分が混合することなく、導くことができる。この手法で、組成の異なる10 µm幅の人工細胞膜を、それぞれ5 µm の距離を離して配置したマイクロアレイを作製した(口絵)。ベシクル融合法と呼ばれる溶液プロセスを利用した従来手法と比較すると、本手法は人工細胞膜マイクロアレイの集積度を原理的に100倍以上向上させることが可能である[2]。
 本手法で作製したマイクロアレイを用いたバイオセンシングの原理確認のため、ビオチン結合脂質分子を添加した人工細胞膜を一部に含むマイクロアレイを作製した。これを赤色発光色素が結合したストレプトアビジン溶液に浸漬し、その前後での蛍光の変化を観察した。ストレプトアビジン浸漬前の図1(a)ではNBD由来の緑色蛍光のみ観察された。浸漬後90分経過した図1(b)では、ストレプトアビジンの特異結合が生じた結果、ビオチンを含む細胞膜が赤色蛍光を示した。ビオチンを含まない人工細胞膜領域からの赤色発光は限定的で、生体分子特異的なセンシングが可能であることを実証した。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] K. Furukawa et al., Lab Chip 6 (2006) 1001.
[2] K. Furukawa and T. Aiba, Langmuir 27 (2011) 7341.
 

図1  作製した人工細胞膜マイクロアレイ。細胞膜の主成分は卵黄から抽出した脂質分子であり、
上段3本にはNBD結合脂質1モル%、中段3本にはビオチン結合脂質1モル%、下段3本には
それらの両方を混合した。(a)ストレプトアビジン溶液浸漬前、(b) 90分浸漬後のレーザ共焦点
顕微鏡像。緑色蛍光はNBD由来、赤色蛍光はストレプトアビジンに結合した色素由来である。

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