ドープされた単層ナノチューブのキャリア濃度の評価

鈴木哲 日比野浩樹
機能物質科学研究部

 熱化学気相成長(CVD)法は単層カーボンナノチューブ(SWNT)の合成手法として広く用いられている。しかしながら、ドープされたSWNTの直接合成は未だ十分に研究が進んでいない。ドープされたSWNT研究のさらに重要な問題点はドーピングの評価手法が確立していないことである。特にSWNT中のキャリア濃度を直接計測することは困難であり、従ってこれまでの報告ではキャリア濃度の評価は行われていなかった。今回我々は、ホウ素 (B)、窒素 (N)を含む原料を用い、B、NドープSWNTのCVD合成を行うとともに、キャリア注入によるラマンスペクトルの変化を観測し、ドープされたキャリア濃度の評価を行った[1]。
 B、Nの原料としてホウ酸トリイソプロピル (C9H21BO3) とベンジルアミン (C7H9N) をそれぞれ用いた。これらの物質は炭素源としても作用する。SiO2/Si基板上に担持したCo薄膜を触媒にしてこれらの原料からB、NドープSWNTをCVD合成することができた。また図1に示すように、2つの原料を同時に供給してBNドープSWNTを合成できることを明らかにした。
 透過電子顕微鏡観察、およびラマン散乱 (radial breathing mode: RBM) 測定から直径が1-2 nmのSWNTが生成していることが分かった。図2にB、N、およびBNドープSWNT、並びにドープしていないSWNTのGバンドのラマンスペクトルを示す。ドーパントの種類によらずドープSWNTのGバンドがドープされていない試料に対して高波数側へ3-6 cm-1だけシフトすることが観測された。ドーピングの種類(電子あるいはホールドープ)に依らないこのGバンドの高波数側へのシフトは、半導体SWNT中のフェルミレベルのシフトによる電子-格子相互作用の変化がフォノンエネルギーを変化させたためと考えられる。元々Gバンドフォノンは電子格子相互作用によるコーン異常の効果によって低波数側にシフトしている。フェルミレベルのシフトは電子格子相互作用を減少させ、従ってコーン異常の効果を減少させる。結果としてキャリアドープによるフェルミレベルのシフトはGバンドの高波数化を引き起こす。この効果が顕わになるのは半導体SWNT中のフェルミレベル位置が価電子帯あるいは伝導電子帯に達した時である。従って図2に示す結果はドープされたSWNT中のフェルミレベルが価電子帯、あるいは伝導電子帯中に位置していることを示している。Gバンドのシフトの大きさからキャリア濃度を見積もることもできる。SWNTの平均直径が〜1.5 nmであることを考えると、見積もられるキャリア濃度は0.4-0.8 %という非常に大きな値となった。

[1] S. Suzuki and H. Hibino, Carbon 49 (2011) 2264.
 

 
図1  BNドープSWNTのSEM像。
スケールバーは5 µm。
図2  B、N、BNドープSWNT、およびドープしていない
SWNTのGバンドスペクトル。数字はピーク位置。
励起光波長は785 nm。

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