グラフェンの磁気電気効果と熱電効果の理論検討

影島博之1 日比野浩樹2 永瀬雅夫3 関根佳明1 山口浩司1
1量子電子物性研究部 2機能物質科学研究部 3徳島大学

 グラフェンは原子1層の薄さの2次元シートという特異な構造を持ち、様々な新しい物性・機能が期待できることから、理論により潜在能力探索を行った[1-3]。
 磁気電気効果は、外部電界によって磁性を制御する効果である[1、3]。グラフェンの端はジグザグ構造を持つと磁性を示すことが理論予測されているが、SiO2上に貼り付ける通常の自立グラフェンでは磁性の発現のために端を水素終端する必要があり、実現が難しい。一方、SiC(0001)表面を高温で熱することで形成されるエピタキシャルグラフェンは、形成初期に島状のグラフェンが形成されるため、これを制御することによってジグザグ構造の端を多く含んだ構造を得ることが期待できる。形成過程から判断すると、SiC上のグラフェン島はCのsp2-σ結合に切れ目がどこにもない特異な構造を有し、端を水素終端する必要がない(図1)。しかも、下地SiCとの相互作用によって、グラフェンは負に帯電している。ジグザグ構造を持ったグラフェン端が磁性を示すためには電気的中性が必要なため、外部にゲート電極を用意し、電界効果によって電荷を中和するように正電荷を注入することで、磁性を発現させることができ、磁気電気効果を示すことが期待できる(図1)。
 熱電効果は温度差から電位差を作る効果であり、この効果を使って廃熱利用発電が期待されている[2、3]。従来のSiO2上に貼り付けられたグラフェンにおいて熱電変換効率を示す指数ZT0は10-3程度と遠く実用化に及ばないレベルであるが、しかしグラフェン上吸着物を1/1000に抑え、下地SiO2起源の遠隔光学フォノン散乱を抑制することができれば、実用化の判断基準となるZT0>1を電荷中性点近傍で実現可能である(図2)。グラフェンは、資源豊富で安価であり、融点も高く、ゲートでp/n極性を制御でき、しかも無害、軽量であることから、熱電効果材料としての期待度は高いと結論できる。
 本研究の一部は科研費の補助を得て行われた。

[1] H. Kageshima et al., Appl. Phys. Express 3 (2010) 115103.
[2] H. Kageshima, Jpn. J. Appl. Phys. 49 (2010) 100207.
[3] H. Kageshima et al., Jpn. J. Appl. Phys., in press.
 

 
図1  SiC(0001)上ジグザググラフェンナノリボンの
原子構造と+8e帯電時のスピン偏極分布。
大きい丸はSi原子、小さい丸はC原子。
図2  グラフェンの熱電変換指数ZT0のフェルミ
エネルギーεF依存性。従来時(case 1)と
キャリア散乱抑制時(case 2)。

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