高性能1次元フォトニック結晶シリコン/SOIナノ共振器

倉持栄一 田邉孝純 Laurent-Daniel Haret 谷山秀昭 納富雅也
量子光物性研究部

 SOI (Silicon on Insulator) 基板上にパタニングしたサブミクロンシリコン細線光導波路中に適切な直線孔列を設けるとナノ共振器となることが良く知られている。1次元(1D)フォトニック結晶(PhC)ナノ共振器の一種であるそれは最も単純な構造と最小のフットプリントを有するものとして注目されてきた。既に大きく発展し広く普及している2次元(2D)ナノ共振器と比べ、その1Dナノ共振器にはQ値が大きく見劣りするという課題があった。本研究において我々は2Dナノ共振器で採用し大きな成功を収めたモードギャップ閉込手法を適用することで、1Dナノ共振器においても超高Q値を実現する解を見出した[1]。
 長方形断面孔(R)及び円孔(C)からなる1Dナノ共振器を検討した。共振器下の埋込酸化膜(BOX)を除去するエアブリッジ構造(AB)と残したままのSOI構造の2通りを検討した。モードギャップを導入するため孔サイズを連続的に変調した。3次元有限領域時間差分法(FDTD)による電磁界解析を行い、RとCで108を超える超高Q値を達成し、またCではモード体積Vが1(λ/n)3より小さくなる設計を見い出した(図1)[1、2]。特筆すべきはSOI構造でもおよそ108ものQ値が得られたことで、1Dナノ共振器固有の特性といえる。数値解析結果は、実験によりC-SOIにて36万、C-ABにて72万のQ値を得たことで実証できた(図2)[2](AB:エアブリッジ構造;共振器直下のBOXを除去)。
 空気が熱の絶縁体の作用をするためAB型1Dナノ共振器は大きな熱抵抗を有し、それを数値シミュレーションで確認している。そのような共振器においては熱光学非線形が著しく増強される。我々は光励起パワーを変える測定においてこれまで報告された中で最小の熱光学双安定しきいパワーとなる1.6 µWをR-AB型ナノ共振器(光学Q値22万)にて実験的に観測した (図3)[3]。基本構造が大きく異なることから、高Q値1Dナノ共振器には従来のナノ共振器と異なる固有の特性や応用が期待できる。
 本研究の一部は科学技術振興機構CRESTの援助を受けた。

[1] M. Notomi et al., Opt. Express 16 11095 (2008).
[2] E. Kuramochi et al., Opt. Express 18 15859 (2010).
[3] L. D. Haret et al., Opt. Express 17 21108 (2009).
 

 
図1  数値解析で得られたQ値とV
図2  ナノ共振器高Qモードの
スペクトル(実験)。
 
図3  熱光学双安定を示す
共振器スペクトル。

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