ギャップ可変型超伝導磁束量子ビットとダイヤモンド中の電子スピン集団とのコヒーレント結合

Xiaobo Zhu1 齊藤志郎1 Alexander Kemp1 角柳孝輔1 狩元慎一1 中ノ勇人1
William J. Munro2 都倉康弘1 Mark S. Everitt3 根本香絵3 嘉数誠4
水落憲和5,6 仙場浩一1
1量子電子物性研究部 2 量子光物性研究部 3国立情報学研究所 4 機能物質科学研究部
5大阪大学 6PREST-JST

 超伝導量子ビットは、制御性の良さと拡張性への期待から、量子演算素子の候補として注目され、数量子ビットでの状態操作や量子演算が実現されている。しかしながら、マクロな量子系である超伝導量子ビットは、外界との結合が強くコヒーレンス時間が短いという問題もある。そこで、ミクロな量子系である原子や分子の量子メモリとしての応用が注目されている。ダイヤモンド結晶中の窒素・空孔(NV)中心の電子スピンは、室温でミリ秒のコヒーレンス時間を示し、しかも、超伝導磁束量子ビットと相互インダクタンスを介して結合することが知られている。まさに、超伝導量子ビット用の最適な量子メモリ候補である。
 NV中心の電子スピンを超伝導量子ビットの量子メモリとして利用するためには、両者のエネルギーを共鳴させる必要がある。そのために、最適動作点でのエネルギー制御が可能な、ギャップ可変型超伝導磁束量子ビットを開発した[1]。次に、高密度のNV中心を含むダイヤモンド結晶を準備し、サファイア基板上に作製した磁束量子ビット試料上に貼り付け、超伝導・ダイヤモンド複合系を実現した。
 図1に磁束量子ビットのマイクロ波を用いた分光測定結果を示す。2.88 GHzに見られる70MHzの分裂は、磁束量子ビットとNVスピン集団との間の強結合を示している。この結合強度から、約6×107個の電子スピンが協調的に量子ビットと結合していることが解る。さらに、磁束量子ビットとNVスピン集団の間で、エネルギー量子1個を繰返し交換するコヒーレント振動(真空ラビ振動)の観測にも成功した(図2)。この振動は、量子ビットとNVスピン集団との間のメモリ動作を表しており、長寿命量子メモリを有する超伝導量子ビットの実現へ向けた第一歩である[2]。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] X. Zhu et al., Appl. Phys. Lett. 97 (2010) 102503.
[2] X. Zhu et al., Nature 478 (2011) 221.
 

 
  
図1  超伝導・ダイヤモンド複合系の分光測定。
図2  超伝導・ダイヤモンド複合系において観測され
たコヒーレント振動(真空ラビ振動)。

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