AlInN/GaN格子整合ヘテロ構造のドーピング制御

谷保 芳孝 Jean-François Carlin* Antonino Castiglia
Raphaël Butté Nicolas Grandjean
機能物質科学研究部 Ecole Polytechnique Fédérale de Lausanne

 GaN系窒化物半導体は、白色照明用の発光ダイオード(LED)、Blu-ray用のレーザダイオード(LD)、無線基地局用の高出力トランジスタなどに用いられている。これらGaN系デバイスは、格子不整合系のAlGaN/GaNやInGaN/GaNヘテロ構造を用いて作製されているが、格子歪に起因するクラック、組成不均一、結晶欠陥によりデバイス特性が制限されている。AlInNはGaNに格子整合するため、格子整合系のAlInN/GaNヘテロ構造では格子歪は発生しない。さらに、AlInN/GaNヘテロ構造は、大きなバンド不連続と屈折率差を有し、キャリヤと光を強く閉じ込めることができる[1]。AlInN/GaNヘテロ構造のデバイス応用が可能になると、GaN系デバイスの特性向上に加えて新規デバイスの創出も期待できる。
 AlInN/GaNヘテロ構造のデバイス応用に向けて、AlInNのドーピング制御が課題である。AlInNは不純物をドーピングしていない場合でも高残留ドナー濃度による強いn型伝導性を示すが、その伝導性の精密な制御は難しいうえ、p型は伝導化自体が実現していなかった。我々は、AlInNをInリッチな表面状態で成長することにより残留ドナー濃度を低減できることを見出し、高純度化したAlInNにSiをドーピングすることでn型伝導性をきちんと制御できるようになった。さらに、AlInNの表面に発生するピットがp型ドーピングの補償中心として働くことを明らかにし、表面ピット密度を低減したAlInNにMgをドーピングすることでp型伝導性を得ることに成功した(図1)[2]。
 p型層にAlInNを用いたInGaN/GaN多重量子井戸(MQW)LEDを作製し、InGaN/GaN MQWからの波長445 nmの青色発光を確認した(図2)。これはp型AlInNからInGaN/GaN MQWへLED動作に十分な量の正孔が注入されていることを示している。AlInNでのpnドーピング制御の実現は、GaN系デバイスの可能性をさらに拡げるものと期待される。

[1] J.-F. Carlin and M. Ilegems, Appl. Phys. Lett. 83 (2003) 668.
[2] Y. Taniyasu, J.-F. Carlin, A. Castiglia, R. Butté, and N. Grandjean, Appl. Phys. Lett. 101 (2012) 082113.
 

 
図1  p型AlInNのアクセプタ濃度NA - NDとMg流量の関係。挿入図はAlInN表面の原子間力顕微鏡像。
図2  p型層にAlInNを用いたInGaN/GaN多重量子井戸 (MQW)LEDの発光スペクトル。

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