GaNステップフリー面上に形成したInN超薄膜単一量子井戸からの
紫色狭線PL発光

赤坂哲也 後藤秀樹 小林康之 山本秀樹
機能物質科学研究部 量子光物性研究部

 InGaN量子井戸を発光層とした青色や緑色発光ダイオード(LED)が実現されている。さらに長波長の赤色LEDを実現するためにはIn組成を高くする必要があるが、In組成が高くなると結晶性の低下による発光効率の低減が問題となる。これに対し、数分子層(ML)以下の極めて薄いInN量子井戸の厚さを変えて量子準位を制御すれば、近紫外〜近赤外領域にわたる高効率発光が理論的には期待される。ところが、InN量子井戸の量子準位制御に必要な単分子層のステップも存在しない急峻なヘテロ界面はこれまで実現できていなかった。我々は、MOVPE選択成長により、大きさが50 µmのGaN step-free面を初めて形成した[1]。今回我々は、GaN step-free面を土台として、その上に、単分子層のステップも存在しないstep-free InN量子井戸の作製について検討を行った。
 GaN step-free面上にInNの成長を行うと、10秒で部分的にコアレッセンスしたニ次元核が得られ、30秒でコアレッセンスが完了した1MLのInNで表面が覆われた。このとき、InNの表面はstep-free面であった。引き続きGaN cap層を形成して作製したInN単一量子井戸(SQW)の断面をSTEMによるhigh-angle annular dark field (HAADF)法で観察した(図1)。HAADF法では、原子番号の大きな原子からより強い散乱強度が得られるので、GaよりInの方が散乱強度が大きい。水平方向に積分した散乱強度を見ると、真中の1層だけ強度が強く、1ML厚のInN層が形成されたことを示している。このInN SQW構造の4 Kで測定した顕微PLスペクトルを図2に示す。3.03 eVにInN SQW由来の半値全幅が9 meVの非常にシャープな紫色発光が見られる[2]。従来のInGaN量子井戸からの紫色発光の半値全幅は低温でも数十meV程度以上と非常に大きく、step-free InN SQWのシャープな発光は、量子井戸の膜厚や組成の揺らぎがないために得られたと考えられる。今後、InNを2ML、3MLと厚くすることにより、それぞれ、緑色および赤色の狭線発光が得られると理論的に予測される。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] T. Akasaka, Y. Kobayashi, and M. Kasu, Appl. Phys. Express 3 (2010) 075602.
[2] T. Akasaka, H. Gotoh, Y. Kobayashi, and H. Yamamoto, Adv. Mater. 24 (2012) 4296.
 

  
図1  Step-free InN SQWの格子像と積分散乱強度。
図2  Step-free InN SQWの低温PLスペクトル。

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