GaMnAs における強磁性秩序によって誘起されたピエゾ抵抗

小野満恒二1,2 Imran Mahboob1 岡本創1 Yoshiharu Krockenberger2 山口浩司1
1量子電子物性研究部 2機能物質科学研究部

 半導体や金属に歪みを加えると、歪み量に応じて抵抗が変化する。この抵抗変化はピエゾ抵抗と呼ばれ、半導体においては歪み印加時に異なるバンド間にキャリアが出入りすることによって、金属においては物質が幾何学的に変化することで生じる。このピエゾ抵抗は古くからよく知られている特性であるが、近年、機械振動子の振動を検出するうえで用いられることが多い。今回、強磁性半導体GaMnAsをカンチレバーに組み込み、その機械共振時にGaMnAsチャネル部に歪みが印加されるような素子を作製し、用いたGaMnAsの強磁性転移温度付近(Tc〜48 K)でピエゾ抵抗の温度依存性および磁場依存性を調べた。
 図1は、今回用いたGaMnAsをピエゾ抵抗振動検出器として組み込んだカンチレバーと、その測定回路の模式図である。カンチレバーはピエゾセラミック上にマウントしてあるが、このピエゾセラミックに交流電圧を印加するとカンチレバーは上下方向に加振される。すなわち、印加交流電圧の周波数を機械振動周波数付近で変化させ、GaMnAsチャネルに生じたピエゾ抵抗を測定することで、機械振動スペクトルを得ることができる。ここで振動時に発生するキャパシタンスクロストークを抑制する目的で、加振周波数とGaMnAsチャネルに入力した交流信号の差周波数をロックインアンプの参照信号として用い、ピエゾ抵抗を測定している。図2はピエゾ抵抗の温度依存性を示し、(a)はロックインアンプの出力の実部、(b)は虚部である。この特徴的な温度依存性は、Tc以下で歪み印加時から時間遅れのあるピエゾ抵抗が新たに発現し、歪みに対して時間遅れが無視できるGaAs本来が有するピエゾ抵抗と混在した結果であると考えられる。共振周波数において実部のピエゾ抵抗がちょうど0となる44 Kの実験結果を用いて計算すると、この時間遅れは230 nsとなる。
 今回このTc以下で発現するピエゾ抵抗成分の観察に成功したことは、GaMnAs中の強磁性秩序が歪みによって外乱される様子を、動的に捉えたことに相当する[1]。

[1] K. Onomitsu et al., Phys. Rev. B 87 (2013) 060410 (R).
 

図1  ピエゾ抵抗測定セットアップの模式図。
図2  Tc付近におけるピエゾ抵抗の温度依存性。

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