メンブレン電気機械振動子

畑中大樹 Imran Mahboob 岡本創 小野満恒二 山口浩司
量子電子物性研究部

 メンブレン機械振動子は二次元的な薄膜振動部から構成されている。同じ周波数帯域の両持ちまたは片持ち梁振動子と比較してQ値が高く、さらには振動部の表面積が広いため、光機械システムのミラーや高感度センサへの応用が期待されている[1]。しかしながら、これまでに提案されたメンブレン機械振動子は電気的な駆動が不可能だったため、その応用範囲が限定的であった。本研究では、この問題を解決するために圧電特性を有するGaAs/AlGaAsヘテロ構造より成るメンブレン電気機械振動子を作製し、室温・高真空の下、そのRF帯域における電気機械特性を調べた[2]。
 図1に示すように、メンブレン機械振動子は4つの金電極を含む直径30 µmの円形メンブレン振動部[GaAs (5 nm) / Al0.27Ga0.73As (95 nm) / Si-GaAs (100 nm) ヘテロ構造]から構成されている。このメンブレンは、中央の穴から流し込んだフッ化水素酸により下部犠牲層 [Al0.65Ga0.35As (3.0 µm)]を選択的にエッチングすることによって形成された。メンブレンの機械振動は、電極AもしくはBへの交流電圧印加によって圧電的に誘起され、また電極Cに発生する電圧を測定することで圧電的に検出される。このメンブレン振動子の電気機械特性を用いれば、基本(0, 1)モードを介したXORゲート論理演算が可能となる。電極AとBをバイナリ入力、電極Cをバイナリ出力とすると(図2左)、入力に使う電極AとBはそれぞれ[1(-)1(-)0]方向と[1(-)10]方向に沿った配置をとる(図1)。AlGaAs結晶の[1(-)1(-)0]方向と[1(-)10]方向では圧電定数の符号が逆転するため、電極AもしくはBから圧電的に誘起された機械振動は互いに逆位相の振動となる。それゆえ、電極AとBへ同時に同じ交流電圧を印加し(0, 1)モードを励振した場合、発生した機械振動は互いに打ち消し合い、機械振動が電極Cにおいて観測されなくなる。その結果、図2右に示すような、XORゲート(AB)に相応する論理動作が可能となる。その他にも、高次の機械共振である(1, 1)モードを用いることで、ORゲート(AB)に相応する論理動作も確認されている。このように、このメンブレン電気機械振動子は、機械振動を用いた複雑な信号処理が可能であり、従来の用途に留まらない応用範囲の拡大が期待される。

[1] J. D. Thompson et al., Nature 452 (2008) 72.
[2] D. Hatanaka et al., Appl. Phys. Lett. 101 (2012) 063102.
 

図1  メンブレン電気機械振動子と
測定セットアップ。
図2  (0, 1)モードを用いたXORゲート(AB)。

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