結合共振器光導波路を用いた単一光子バッファ

武居弘樹 松田信幸 倉持栄一 William J. Munro 納富雅也
量子光物性研究部 NTTナノフォトニクスセンタ

 光導波路技術を用いた量子情報システムの集積化が注目を集めている。既に、もつれ光源、量子回路、光子検出器などの導波路上の集積化が報告されている。これらの機能に加え、光子のバッファをチップ上に備えることにより、柔軟に再構成可能な集積化量子光回路の実現が期待できる。今回、シリコンフォトニック結晶モードギャップ共振器を400個結合した結合共振器光導波路(CROW)中のスローライト効果を用いて単一光子バッファを実現した[1]。
 実験系を図1に示す。波長1551.1 nm、パルス幅20 psの光パルスを長さ500 mの分散シフトファイバ(DSF)に入力し、自然放出四光波混合により量子相関光子対を発生する。出力されたシグナル光子(波長1546.70 nm)はレンズファイバによりCROWを含む導波路に結合された後、超伝導単一光子検出器(SSPD)により検出される。アイドラ光子(波長1555.53 nm)はSSPDにより直接検出される。両SSPDの検出信号を時間間隔測定器に入力し、同時計数測定を行う。使用したCROWの概要を図1のインセットに示す[2]。本実験では、格子定数a=420 nm、共振器間隔5a、共振器数400(全長840 µm)のCROWを用いた。また、同一のチップ上に備えられた、CROW部分がフォトニック結晶線欠陥導波路により置き換えられた参照導波路を時間遅延の基準として用いた。
 シグナル光子がそれぞれCROWおよび参照導波路を透過した場合の同時計数測定ヒストグラムを図2の○および□で示す。CROWによりシグナル光子に付与された時間遅延のため、同期計数ピークが151.1±0.5 psシフトした。この結果は、単一光子パルスがCROW中では光速の約1/59の群速度で伝搬していることを示している。また、CROW通過後のシグナルとアイドラ間の強度相互相関ɡsi(2)(0)は3.25 ±0.06と観測され、CROWによるバッファ後にも非古典的な強度相関が保持されていることが確認できた。本実験に加え、チップ温度の変化による50 psの時間遅延量チューニングを確認した。また、時間位置もつれ状態がCROW中で保持可能であることを実験的に示した。

[1]
H. Takesue, N. Matsuda, E. Kuramochi, W. J. Munro, and M. Notomi, Nature Commun. 4 (2013) 2725.
[2]
M. Notomi, E. Kuramochi, and T. Tanabe, Nature Photon. 2 (2008) 741.
図1
 実験系。
図2
 時間間隔測定のヒストグラム(同時係数ピーク付近)。