半導体/超伝導ハイブリッド量子ポイントコンタクトにおけるジョセフソン結合

入江 宏1 原田裕一1 杉山弘樹2 赤崎達志1 
1量子電子物性研究部 2NTT先端集積デバイス研究所

フェルミ波長程度の幅をもつバリスティックな一次元導体では、伝導モードの離散化により電気伝導度が2e2/hの整数倍をとることが知られている。このことは散乱が全くない場合でも電気伝導度が物理定数のみで決まる有限の値に留まることを意味する。一方、導体を超伝導体に置き換えた場合、2つの超伝導体が点接触する超伝導量子ポイントコンタクトには超伝導電流が流れ、そのとき単一伝導モードあたりの臨界電流値が/ħとなることが理論的に示されている(Δは超伝導ギャップ)[1]。この超伝導版の電気伝導の量子化は、理論の提唱から20年以上が経過した今も、その実験的な実証例は数限られている [2]。今回、良好なゲート制御性をもつ半導体量子ポイントコンタクト(QPC)と超伝導体を組み合わせたハイブリッドQPCを用い、ジョセフソン電流の量子化の観測を試みた[3]。

実験には、In0.75Ga0.25As二次元電子ガスをベースとしたQPCに超伝導Nb電極を結合させた素子を用いた。図1に素子構造の模式図を示す。Nb電極に挟まれたInGaAs中では、Nb界面におけるアンドレーエフ反射によってボゴリューボフ準粒子が生成される。この準粒子が超伝導体の位相情報を伝達することで、Nb電極間にジョセフソン結合が生じ超伝導電流が流れる。ジョセフソン結合に関与する伝導モード数はゲートにより制御可能であり、これにより伝導モード数とジョセフソン電流の関係が得られる。実験で得られた20 mKにおける最大ジョセフソン電流(Ic)とゲート電圧(Vg)の関係を図2に示す。Vgに対してIcが階段状に変化しており、伝導モードの離散化によりジョセフソン電流が量子化されている様子が明瞭に観測されている。単一伝導モードあたりのIcは10.3 nAであり、Nbの超伝導ギャップ(Δ ~ 1.27 meV)から予想される値125 nAよりも小さい。このことはNb/InGaAsの界面に超伝導ギャップの抑制された界面状態が生じていることを示唆している[3]。(伝導モード数1および2におけるIcの抑制は、有限温度による効果であり本質的なものではない。)

本成果では、ハイブリッドQPCにおいて半導体一次元チャネルを介したジョセフソン結合を実現し、ジョセフソン電流の量子化を明瞭に観測することに成功した。

本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1]
C. W. J. Beenakker and H. van Houten, Phys. Rev. Lett. 66, 3056 (1991).
[2]
H. Takayanagi et al., Phys. Rev. Lett. 75, 3533 (1995).
[3]
H. Irie et al., Phys. Rev. B 89, 165415 (2014).

図1 ハイブリッド量子ポイントコンタクト。

図2 ジョセフソン臨界電流の量子化。