核磁気共鳴による強磁場中ウィグナー結晶の観測

Trevor David Rhone1,2 Lars Tiemann1,2 柴田尚和3 村木康二1,2 
1量子電子物性研究部 2科学技術振興機構 3東北大学

強磁場中の二次元電子系では運動エネルギーが凍結されるため、電子間相互作用によって多彩な量子相が現れる。分数量子ホール効果が終端する低占有率領域では電子がウィグナー結晶を形成していると考えられているが、その実験的証拠はマイクロ波吸収における固体に特徴的な振動モードの観測など間接的なものに限られていた。本研究では固体を特徴づけるものとして並進対称性の破れに着目する。電子の結晶化によって生じるナノメートルスケールでの確率密度の変化を抵抗検出NMRによって検出し、相互作用によって局在化した電子の空間的な広がりなど微視的な情報が得られることを示す[1]。

磁場6.4 Tにおける縦抵抗の占有率依存性と測定された75AsのNMRスペクトルを図1に示す。電子系が分数量子ホール液体状態にある占有率ν = 1/3では、観測されたスペクトルは系が一様と仮定した場合のシミュレーションと良く一致する。一方、ν < 1/3やν = 2の近傍では電子系が一様と仮定したモデルでは実験を説明することができない。これに対し、電子やν = 2に付け加えた電子/正孔がウィグナー結晶を形成していると仮定したモデルを用いると実験を極めて良く再現することができる。実効的な占有率が等しいν = 1.9と2.1でスペクトルの形状が異なるのはランダウ準位指数による一電子波動関数の違いを反映しており、NMRによってナノメートルスケールでの確率密度の変化を検出できることを示している。

[1]
L. Tiemann*, T. D. Rhone*, N. Shibata, and K. Muraki, Nature Phys. 10, 648 (2014).
(*: These authors contributed equally to this work.)

図1 (a) 縦抵抗の占有率依存性。(b)-(d) 様々な占有率における75Asの抵抗検出NMRスペクトル。横軸は占有率2の場合の共鳴周波数に対するシフト量。破線は二次元電子系が一様でスピン偏極していると仮定した場合のシミュレーション。実線はウィグナー結晶が形成されていると仮定した場合のモデルによるフィッティング。挿入図は占有率(b) 0.2、(c) 1.8、(d) 2.1における電子配置の模式図。