ナノピラーアレイ上の神経細胞成長

河西奈保子 住友弘二
機能物質科学研究部

 神経細胞のIn vitroにおける培養は、細胞間情報伝達機構の解明や神経回路の工学応用等を目的にして広く行われている。我々は、神経細胞との人工的なシナプスを形成するデバイスの実現をめざし、様々な基板上で神経細胞の培養を行っている。一方、近年微細加工技術の発展からナノ構造物上を用いた神経細胞のガイダンスも精力的に行われている。本研究では、神経細胞を成長させるための足場としてシリコン(a-Si)および金(Au)のナノピラーアレイを作製し、神経細胞の成長方向の制御するための基礎的な検討を行った[1]。
 EBリソグラフィにより石英基板にa-SiおよびAuのナノピラーアレイ(ピラー直径:100 または 500 nm、高さ:500 nm)を作製した。その上にラットの大脳皮質由来の神経細胞を7日間、5%CO2、飽和水蒸気下で培養した。試料の観察には走査型電子顕微鏡または共焦点レーザ顕微鏡を用いた。
 基板上に培養した神経細胞の神経突起は、a-Siピラー上に良好に成長することを確認した(図1)。神経突起の太さは直径500 nmのピラー上のほうが直径100 nmのピラー上よりも太く、神経突起とピラーとの接着面積が骨格系タンパク質の発現に影響し神経突起の太さが変化することを示唆した。また、神経細胞はAuピラー基板上ではランダムに成長するのに比べa-Siピラーではピラーパターンに比較的沿って成長した[図2(A)]。さらに、神経突起の先端の位置は、Auと比較するとa-Siでは有意に多くの神経突起がピラー上に存在し、ピラー材料によって異なる親和性を示した[図2(B)]。これは神経細胞の断面観察から細胞体がAu上に良好な接着を示さなかった結果[2]と一致した。これらの結果は、ピラー材料を最適化することで神経ガイダンスに適した環境を提供できる可能性を示すものである。
 本研究の一部は科研費15H03541の助成を受けて行われた。

図1 異なるパターンのa-Siピラー上に成長した神経突起。スケール:2 µm。 図2 a-SiおよびAuピラー上に成長した神経細胞(A)と神経突起の先端位置(B)。スケール:50 µm。