MoS2/SiO2/Siヘテロ構造で構成されたトンネル・ダイオード~MoS2のバンドギャップ構造の分析~

西口克彦1 Andres Castellanos-Gomez2 山口浩司1 藤原 聡1 Herre van der Zant2 Gary Steele2
1量子電子物性研究部 2Delft University of Technology

 多くの電子回路を構成するSiトランジスタは、微細化によって性能が向上してきた。さらにサイズが数十〜数nmまで小さくなると、新たな機能をもつことも可能となり、これまで我々は単一電子を操る素子[1]や、高感度センサ[2]、発光素子[3]を実現してきた。しかし、いくら微細化が進んでもSiがもつ特性を大きく変えることはできないことから、性能には自ずと限界が生じる。翻って他の材料を見ると、グラフェンや二次元層状物質などが次世代材料として注目を浴びている。しかし、作製技術などの観点から、現段階では発展途上の材料と言える。そこで我々は、Siと二次元層状物質を組み合わせることによって、それぞれの特徴を生かした素子の実現を目指している。今回は、二次元層状物質の一つである二硫化モリブデンMoS2とSiを組み合わせたトンネル・ダイオードを紹介する[4]。
 トンネル・ダイオードはSiトランジスタをベースとしており、ゲート電極に数層で構成されたMoS2を用いる(図1)。このMoS2は、粘着テープと透明ポリマーを用いた劈開法によって薄層化したもので、Si上部に転写する。SiおよびMoS2は、それぞれp型とn型のトランジスタ特性を示し、またSiとMoS2の間にはゲート酸化膜SiO2があるため、p/絶縁層/nヘテロ接合が構成される(図2)。SiO2は 6 nmと薄いため、SiとMoS2の間に電圧を印可するとトンネル電流が流れ、負性微分抵抗を示すピーク構造が確認できた(図3)。これは高濃度にドープされたp-n接合トンネル・ダイオードに類似したトンネル現象が起きていると考えている。また、4つの電流ピークが現れており、今回用いたMoS2が膜厚の異なる4つの領域をもつことに起因している。ピークが現れる電圧は、膜厚で変化するMoS2のエネルギー・バンド構造の情報を含んでおり、今回ヘテロ接合のバンド構造の導出に成功した。他の材料に対しても当該素子構造を用いることで、様々な環境でバンド構造の情報が得られるだけでなく、新たな素子の実現が期待できる。

図1 素子の写真。
図2 素子の概念図
図3 トンネル電流特性。