組合せ最適化問題を解くコヒーレントイジングマシン

稲垣卓弘 稲葉謙介 本庄利守 武居弘樹
量子光物性研究部

 組合せ最適化問題をイジングモデルの最低エネルギー状態探索問題に置き換えることで、最適解を探索することを目指すイジングマシンの研究が行われている。我々のコヒーレントイジングマシンは、縮退光パラメトリック発振器(DOPO)がとりうる2種類の発振状態をイジングモデルを構成するスピン状態に見立てて計算を行う。コヒーレントイジングマシンで複雑な組合せ最適化問題を解くためには、多数のDOPOを用意し、任意の2つのDOPO間に光結合を導入しなければならない。そこでまず我々は、全長1 kmの長距離光ファイバリング共振器を構築し、時間領域で多重化することで、10000を超える数のDOPOを一括発生させることに成功した[1,2]。次に、この光ファイバリング共振器内に時間遅延光干渉計を挿入することで隣接するDOPO間に光結合を導入し、1次元イジングモデルの極低温下での強磁性・反強磁性的な振る舞いを観測し、いずれの場合もドメイン構造の形成を確認した。
 さらに複雑な光結合をDOPO間に導入するため、我々は測定・フィードバック法と呼ばれる手法をコヒーレントイジングマシンに実装した[図1(左)]。この手法では、光ファイバリング共振器内を周回するDOPOの光パルスの振幅をモニタし、電子演算によって個々の光パルスに対する光結合の合計値を算出し、その結果を用いて外部注入する光パルスを振幅変調して共振器にフィードバックすることによって、疑似的に任意のDOPO間に光結合を導入できる。この測定・演算・フィードバックのサイクルを、DOPOが光ファイバリング共振器を周回する度に実行することで、複雑なネットワーク構造のイジングモデルを模擬できる。我々はこの手法によって、2048個のDOPO間に任意の光結合を導入可能なコヒーレントイジングマシンを実現し、MAXCUT問題と呼ばれる組合せ最適化問題に対する高精度な解の探索に成功した。2000頂点、200万辺の複雑なグラフ問題でベンチマーク実験を行った結果、既存のデジタルコンピュータに対して約50倍の計算時間の高速化が確認された[図1(右)][3]。
 本研究は、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の支援を受けたものである。

図1 (左)コヒーレントイジングマシンの実験図。(右)MAXCUT問題のベンチマーク実験結果。