高次元Time-bin量子状態のトモグラフィ

生田拓也 武居弘樹
量子光物性研究部

 量子情報処理の高度化のため、用いる量子状態の高次元化の研究が近年活発に行われている。高次元量子状態は互いに直交する状態を複数取ることができるため、1つの粒子が伝達できる情報量を増加させることが可能となる。光子のTime-bin量子状態はファイバ伝送中の状態劣化が小さいため量子通信で広く用いられているが、状態を構成する時間スロットを増やすだけで容易に高次元化ができるという利点も有する。生成された状態や伝搬後の劣化を評価するには、量子状態を完全に特徴づける量子状態トモグラフィ(QST) [1,2]が重要である。しかしながら、これまで高次元Time-bin量子状態に対するQSTは知られていなかった。今回、我々はカスケード接続した遅延マッハツェンダ干渉計を用いて、測定のセットアップ数がTime-bin量子状態の次元数に比例するQSTを提案し、4次元Time-bin量子もつれ状態に対するQSTを行った[3]。
 図1に提案したQSTの実装方法を示す。高次元Time-bin量子状態では情報が光子の時間位置、および複数の時間位置間での相対位相にエンコードされる。図1中の干渉計を通った光子に対して単一光子検出を行うと、エンコードされた状態と干渉計のセットアップに依存した特定の干渉パターンを示す。干渉計のセットアップを変えながら干渉パターンの変化を測定することで時間位置と相対位相の情報を得ることができ、高次元Time-bin量子状態の再構成が可能となる。
 我々は、周期的分極反転ニオブ酸リチウム導波路中での自発パラメトリック下方変換を用いて4次元Time-bin量子もつれを生成し、上記のQSTを行った。QSTにより得られた状態は、フィデリティ95.0%の純粋4次元Time-bin量子もつれに近い状態を示した(図2)[3]。提案手法を用いることで、4次元Time-bin量子もつれの次元16に対し、それに等しい16種の干渉計のセットアップ数でQSTが可能となり、高次元Time-bin量子状態に対する効率的なQST装置の実装を確認した。

図1 カスケード接続した遅延マッハツェンダ干渉計によるQST。 図2 再構成した状態密度演算子の実部。