我々は,表面の原子構造を定量的かつ高精度に決定する中速イオン散乱法(MEIS)の新手法を提案した.また,この新手法をSi(100)基板上のGeダイマー構造の解析に適用し,その原子変位を決定した.
中速イオン散乱法は,表面構造解析に有効な手法の一つであるが,再構成した表面に対してはその散乱過程が複雑で詳細な解析が困難であった.そこで,Ge層をSi基板の4-12原子層の深さに制御よく埋め込み,その埋め込み層からの信号に注目した.図1に見られるように,埋め込み層からの信号はその散乱エネルギーの違いからSi基板の信号と識別され,その散乱過程は観測されたブロッキングディップと対応付けられる.また,他のディップとの干渉が抑制されることより定量性が向上する.さらに,埋め込み層の深さを任意に制御することにより,熱振動の影響を最小に抑えることが可能となる.観測されたブロッキングプロファイルには方位の周りにサブディップがはっきりと観測されている.このディップは,表面のGeダイマーによるブロッキングを反映した物である.このように,埋め込み層からの信号を解析することにより,Geダイマーの原子変位が精密に決定できる.
図2は,本手法を用いた結果得られたGeダイマーの構造モデルである.Si(100)基板上でGeは非対称ダイマーを形成している.それぞれの原子変位から,ダイマー間の距離は2.4 +- 0.1 Aであることが分かった.このように,本手法が再構成表面の構造解析に非常に有効であることが確認された.
図1:埋め込みGe層から得られたMEISブロッキングプロファイル
図2:非対称Geダイマー構造の原子変位