1層および2層エピタキシャルグラフェンの電気伝導特性

田邉真一1 関根佳明2 影島博之2 永瀬雅夫3 日比野浩樹1
1機能物質科学研究部 2量子電子物性研究部 3徳島大学

 1層グラフェンと2層グラフェンは、高速デバイスや論理デバイスなどの材料として期待されているが、一般的に用いられているグラフェンの製法であるグラファイトの剥離法で得られるグラフェンの大きさは数十マイクロメートル角程度であり、大面積で得られ難いという問題がある。我々はグラフェンのウエハスケール成長法として、エピタキシャル成長が可能なSiCの熱分解法に注目しており、SiC(0001)のAr雰囲気中のアニールによって1層グラフェンを、超高真空中のアニールにより2層グラフェンを作り分けることに成功している。成長したグラフェンの特性を調べるため、これらをチャネルとしたトップゲート素子を作製し、その特性を調べた。
 図1は1層グラフェン素子における、面直方向の磁場に対する縦抵抗、およびホール抵抗の磁場依存性である。ホール抵抗は1層グラフェン特有の抵抗値で磁場に対して一定となり、その時の縦抵抗は極小値をとる。さらに高磁場では縦抵抗がゼロになることから、量子ホール効果を観測できたことが分かる。また、ゲート電圧 (Vg)によってキャリア濃度を減少させると移動度は増加し、3×1010 cm-2のキャリア濃度で2 Kでは10,000 cm2 V-1 s-1以上と、SiO2上に転写した剥離1層グラフェンに匹敵する移動度を得た[1]。図2は2層グラフェンの2 Kから300 Kまでの抵抗のゲート電圧依存性である。全ての温度において抵抗は電荷中性点で極大値をとり、その抵抗値は温度に強く依存することが分かった[2]。これはSiC基板との相互作用によって開いたバンドギャップに起因する。以上のように、成長した1層グラフェンで高品質グラフェンでしか得られない量子ホール効果を観測し、2層グラフェンで論理デバイス応用に重要なバンドギャップを検出したことは、SiC熱分解法が高品質なグラフェンを成長する手法として有望であることを物語っている。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] S. Tanabe et al., Appl. Phys. Express 3 (2010) 075102.
[2] S. Tanabe et al., Jpn. J. Appl. Phys. 50 (2011) 04DN04.
 

 
図1  1層グラフェンの縦抵抗とホール抵抗の磁場依存性。
図2  2層グラフェンの2 Kから300 Kまでの抵抗のゲート依存性。

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