神経活動を励起するための刺激用多機能光ファイバ

島田明佳1 浅川修一郎2 中島和秀3
1機能物質科学研究部 2フォトニクス研究所 3アクセスサービスシステム研究所

 紫外線光の照射により本来の生理活性を発揮するケージド化合物を用いた光刺激は、神経活動の局所的な励起に適している。一方電気刺激は、広範囲にわたる神経活動の励起に適している。今回我々は、本ファイバは光刺激、化学刺激、電気刺激の印加が可能な刺激用多機能光ファイバを開発した[1]。
 本光ファイバは、コアの周囲に6個の空孔を有するホールアシスト型光ファイバ[2](図1)とマイクロ流路から構成される(図2)。ケージド化合物の一種であるケージドグルタミン酸は電解質溶液に溶融されており、マイクロ流路を介して空孔より試料へ投与される。ケージドグルタミン酸は、光ファイバより照射された紫外線光により神経伝達物質のグルタミン酸が生成され、神経活動が励起される。一方電気刺激は、マイクロ流路および空孔を満たす電解質溶液を介して試料に印加する。神経活動は、カルシウムイオン濃度により蛍光強度が変化する指示薬(Fluo-4)を細胞内に導入して計測した。両者の刺激とも神経活動の励起をすることができたが、その刺激範囲はケージドグルタミン酸の場合は光ファイバの末端部に限局しているのに対し[図3(a)]、電気刺激は広範囲にわたって神経活動を励起した[図3(b)]。
 本成果は、3種類の刺激印加を1本のファイバで実現するとともに、化学刺激の際に使用する薬物の量を激減することが可能となり、脳生理分野や医学分野への応用が期待される。

[1] A. Shimada et al., Neuroscience2011, 204.27, Washington DC, 2011.
[2] K. Nakajima et al., Photonics Technology Letters, IEEE 15 (2003) 1737.
 

図1  ホールアシスト型光ファイバ断面図。
図2  刺激用多機能光ファイバ。
図3  カルシウムイオン指示薬で標識され
たラット大脳皮質由来の神経細胞。
(a)ケージドグルタミン酸で励起された
神経活動。(b) 電気刺激で励起され
た神経活動。

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