導電性高分子とシルク繊維の複合素材による長期安定記録が可能な生体電極

塚田信吾 中島寛 鳥光慶一
機能物質科学研究部

 生体内の信号を送受信するバイオインタフェースはナノバイオ研究に必要不可欠である。バイオインタフェースには金属と電解質ペーストによる生体電極が広く使用されているが、検出感度や時間分解能に優れるものの、生体に与えるダメージや長期の記録の安定性に課題が残されている。
 PEDOT-PSS (Poly (3,4-ethylenedioxythiophene) / poly (4-styrenesulfonic acid))は、高い導電性、親水性、生体適合性を特徴とする導電性高分子であり、次世代の生体電極用素材と考えられている。しかしPEDOT-PSSは吸水時の強度低下や加工上の制約により、汎用性のある生体電極は実現していなかった。今回、生体電極用の素材としてシルク繊維とPEDOTPSSの複合素材を開発した[1]。PEDOT-PSSをシルク繊維表面に電気化学的に重合させ、さらにグリセロールを添加することにより、生体電極に求められる吸水時の引張強度(径280 µmの繊維束で1,000 CN)と導電性0.23 S/cm (2 Kohm/mm)を付与することができた(図1)。本複合素材を用いた生体電極は、電解質ペーストを必要とせず生体と直接長期間安定した信号の送受信が可能であり、測定信号の安定性は従来の医療用の生体電極に匹敵することを動物実験により確認した(図2)。
 この複合素材は柔軟な繊維の特性を生かし紐や布状の電極の作製や、衣類への縫い込みも可能である。ナノバイオ研究をはじめ、ICTや健康・医療分野への応用が期待される。

[1] S. Tsukada et al., PLoS ONE 7(4) (2012) e33689.
 

 
図1  a. PEDOT-PSSシルク繊維(右)と未
コートのシルク繊維(左) b.同 実体顕微
鏡像 c. PEDOT-PSSシルク繊維のSEM
画像 (Scale bar 20 µm)。
図2  a. 心電図用(右)と脳波用(左)の皮膚表面装着
型生体電極の構成。b. 1.PEDOT-PSS silk電極。2.
医療用の銀塩化銀ゲル電極。3.テキスタイル電極から
同時記録したラットの心電図(Scale bar 1 sec 50 mV)。
c. PEDOT-PSS silk電極で測定したラットの脳波(Scale
bar 1 sec 50 µV, F3, F4:前頭部左,右 C3, C4:中心部
左, 右)。

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