極薄六方晶BNの合成とトンネル素子への応用

Carlo M. Orofeo 鈴木 哲 影島博之 日比野浩樹
機能物質科学研究部 量子電子物性研究部

 原子層厚さの六方晶窒化ホウ素(h-BN)の作製技術が近年著しく進歩した。薄いh-BNは、トンネルトランジスタやスピントロニクス素子のトンネルバリア層など、様々な潜在的応用を有している。このため、h-BNを、層数を制御して合成する技術は大切である。本稿では、サファイア基板に保持されたヘテロエピタキシャルCo薄膜上での大面積の単層h-BNの成長を報告する。
 h-BN成長は、アンモニアボラン(NH3-BH3)を原料に、低圧の化学気相堆積(CVD)法を用いて行った[1]。我々は、h-BN成長初期において、向きが反転した2種類の三角形状のh-BN島が形成されることを観測した(図1(b))。h-BN島のエッジは窒素原子で終端されるため、向きの異なるドメインの接合部には欠陥が形成される。また、h-BN成長は単層でほぼ自己停止し、2層目以降はドメイン境界などの欠陥部にパッチ状に形成されることを見出した。さらに、低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)を使って、h-BNの層数を10 nm程度の空間分解能でデジタルに決定する手法も開発した。LEEMによる層数決定には、転写や断面加工のような付加的プロセスを必要としないという利点もある。図1(a)は1~2層厚さのh-BNの低エネルギー電子の反射率スペクトルである。電子線は、層数に依存した特定のエネルギーで、h-BN層中の量子化された電子状態を介して、h-BNを共鳴的に透過する。このため、反射率スペクトルに振動構造が現れる。図1(a)の2層h-BNのスペクトルにおいて、2.5 eV付近の極小が共鳴的透過に対応する。第一原理計算から、振動の位置がh-BNのバンド構造と関連していることも明らかにした。
 次に、SiO2上やプラスチック上に、合成したh-BNを金属電極でサンドイッチしたトンネル素子を作製し、トンネルバリア特性を評価した(図1(c))[2]。トンネル素子のI-V特性は、ゼロバイアス付近では線形で、高バイアス下では指数関数的な、トンネル現象に特徴的な振る舞いを示した。トンネル効果の理論式に基づく解析から、バリア高さが~2.5 eVで、絶縁破壊強度が3.78 ± 0.83 GVm-1と見積もられた。これらの値は、単結晶基板から剥離したh-BNと同程度である。加えて、CVD法で合成したh-BNは容易にスケールアップが可能なため、トンネルバリア応用に大きなポテンシャルを有している。

[1]
C. M. Orofeo, S. Suzuki, H. Kageshima, and H. Hibino, Nano Res. 6 (2013) 335.
[2]
C. M. Orofeo, S. Suzuki, and H. Hibino, J. Phys. Chem. C 118 (2014) 3340.
図1
 (a) Co薄膜上にCVD成長させたh-BNの電子反射率スペクトル。挿入図は対応するLEEM像。数字は層数を表現(0は基板)。(b) Co薄膜上に成長した三角形状のh-BN島のAFM像。(c) 異なる面積の金属/h-BN/金属トンネル素子のI-V特性。挿入図はフレキシブル基板(PEN)上に作製した素子の光学顕微鏡像。