エルビウムシリケイト(Er2SiO5, Er2Si2O7)、酸化エルビウム(Er2O3)などのエルビウム化合物は、光利得材料としてシリコンフォトニクスの分野で大きな注目を集めている。これらの化合物には通信波長帯のCバンド(1.5 µm帯)で発光するEr3+イオンが大量(約1022 cm-3)に存在し、シリコン基板上で高利得の導波路型増幅器の実現が期待できるからである。しかし、エルビウム化合物では、結晶中のEr3+の数が多過ぎるため濃度消光によりEr3+の発光効率が著しく低下してしまう。一方、Er3+とほぼ同じイオン半径(0.9 Å)をもつイッテリビウムイオン(Yb3+)はEr3+の発光に対して感光材として機能することはよく知られている。そこで、我々はエルビウム化合物にイッテリビウムを添加することにより、濃度消光の低減とEr3+イオンの高効率発光とを同時に達成することを目的として、シリコン基板上にエルビウム-イッテリビウムの混晶化合物を形成し、その発光特性を明らかにした[1]。
図1は、Si(100)基板上にRFスパッタリング法により室温で成長したYb2O3(80 nm)/Er2O3(10 nm)/Yb2O3(20 nm)サンドイッチ構造からの放射光斜入射X線回折パターンである。この図からわかるように、Ar雰囲気中の熱処理により、900℃ではErxYb2-xO3が、1000℃ではErxYb2-xO3に加えEr2Yb2-xSi2O7が、1100℃ではErxYb2-xO3の多結晶の膜が形成される。図2は、波長1.5 µmのEr3+からのフォトルミネッセンス(PL)スペクトルの熱処理温度依存性を示す。熱処理温度が950℃の場合に高強度かつ発光帯域幅の広いPLスペクトルが得られた。X線回折、PL測定、断面透過電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光の結果を総合的に分析した結果、この温度でのEr3+イオンからの高強度で広帯域なPL発光はSi基板上でのEr-Yb混晶酸化物とEr-Yb混晶シリケイトの同時形成に起因することがわかった。これらの結果は通信波長帯で高効率・広帯域な導波路型増幅器をシリコン基板上で実現するための重要な知見である。
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