共振回路を用いた高速・高感度センサ

西口克彦 山口浩司 藤原 聡 Herre S. J. Zant Gary A. Steele
量子電子物性研究部 Delft University of Technology

 トランジスタはLSI回路の主要素子であり、その微細化によってLSIの性能が向上してきた。一方、微細なトランジスタは高感度な電荷センサとしても利用できる[1]。我々は、数十nmのチャネルをもつSiトランジスタ(FET)(図1(a))を用いて室温で単一電子を検出することに成功しており[2]、これまで単一電子を1bitとする回路[3]や計数統計分析[4]、MEMS信号検出[5]などに利用してきた。しかし、チャネルが小さいため抵抗が大きくなり、動作速度が数十~百kHz程度に限られてきた。今回、我々はトランジスタに共振回路を接続し、高周波信号の反射特性をモニタすることで動作速度を20 MHまで改善することに成功した[6]。
 図1(b)に示す様にFETにインダクタLを接続するとFETの寄生容量CsとでLC共振回路が構成される。回路の共振周波数1/(2πLCs)に近い周波数fcarrierの信号Scarrierをcoulperを介して回路に印可すると、回路の反射特性に応じた反射信号Srefが得られる。このとき、FETのゲート端子に周波数がfgate(= 10 MHz)の信号Sgateを印可すると、FETチャネル抵抗とともに回路の反射特性が変調される。その結果、Srefのスペクトラム特性には、Scarrierに起因する信号の両脇にSgateに起因する2つのサイド・ピークが現れる。今回、Sgateとして単一電子信号に相当するパワーの信号を加えており、これらサイド・ピークの出現はSgateに印可された単一電子信号の検出を意味する(図2)。LC共振回路は反射特性に応じてScarrierを一定期間蓄積することができるので、その範囲内で高速にSgateを検出できる。また、同様の手法を用いる他の素子と比較しSi FETには数桁大きいパワーを印可することができるので、大きなサイド・ピーク信号が得られる。一方、サイド・ピークの周波数fcarrier±fgate付近では、通常問題となる低周波数領域での1/fノイズを実質的に除去できるためS/N特性が改善する。結果として、高速に微小な信号を検出することが可能となり、20 MHzで感度~10–4 e/Hz0.5という性能を室温で実現した。なお、SrefScarrierをミキサに入力することで、fcarrier±fgateに現れるサイド・ピークをもとの周波数fgateに戻すことができ、任意の波形のSgateを検出できる。これらの特徴により、室温で動作する高速・高感度なセンサとして幅広い利用が期待できる。
 本研究の一部は最先端・次世代研究開発支援プログラムの助成を受けて行われた。

[1]
M. H. Devoret and R. J. Schoelkopf, Nature 406 (2000) 1039.
[2]
K. Nishiguchi et al. Jpn. J. Appl. Phys. 47 (2008) 8305.
[3]
K. Nishiguchi et al. Appl. Phys. Lett. 88 (2006) 183101.
[4]
K. Nishiguchi, Y. Ono, and A. Fujiwara, Appl. Phys. Lett. 98 (2011) 193502.
[5]
I. Mahboob et al. Appl. Phys. Lett. 95 (2009) 233102.
[6]
K. Nishiguchi et al. Appl. Phys. Lett. 103 (2013) 143102.
図1
 (a)単一電子検出トランジスタの電子顕微鏡写真。(b)LC回路と組み合わせた等価回路。
図2
 単一電子検出を示すSrefスペクトラム。