量子力学の原理によって安全性が保証された量子鍵配送(QKD)の実用化のためには、鍵配送距離の長距離化が重要である。NTTでは以前、低雑音、高速動作が可能な超伝導単一光子検出器(SSPD)を用いて、200 kmの光ファイバ(伝送損失42.1 dB)上におけるQKDを実証している[1]。今回、SSPD性能の大幅な向上に成功し[2]、これを用いて336 kmの光ファイバ(伝送損失72 dB)におけるQKDを達成した[3]。これは、QKD実験における鍵配送距離の世界記録である。
QKDでは、通常極微弱な単一光子を情報の担い手としている。光ファイバ長の増加と共に損失が増大し、シグナルがノイズに埋もれてしまうと鍵配送が不可能となる。このため、長距離化には出来るだけ信号雑音比(S/N比)の良い単一光子検出器が必要である。我々は、SSPDにおける暗計数(光が入射していないときに現れるノイズパルス)の原因は、SSPD素子に光ファイバを通じて照射される室温の黒体輻射であることを見出し、黒体輻射を除去するため、3 Kに冷却された光バンドパスフィルタを導入した[2]。この方法により暗計数率を3桁低下させることに成功した。図1に冷却フィルタを導入したSSPDの検出効率および暗計数率のバイアス電流依存性を示す。バイアス電流21.5 µAにおいて検出効率4.4%、暗計数率< 0.01 cpsとなり、SSPDのS/N比を30 dB以上向上させることが可能となった。
本SSPDを用いて、実績のある差動位相シフトプロトコルにもとづいたQKD実験を行なった[3]。一般的個別攻撃に対する結果を図2に示す。損失72 dB(ファイバ長336 km)においても誤り率(QBER)は充分に低く、シフト鍵から安全鍵を生成することが可能である。