自己触媒法によるInP/InAsヘテロナノワイヤの作製および光学特性

Guoqiang Zhang 舘野功太 後藤秀樹 
量子光物性研究部

半導体ナノワイヤは、フォトニクス、エレクトロニクス、エネルギー変換などの分野において次世代のビルディングブロックとなっている。 ナノワイヤ研究の一つの重要な課題は、優れた光学特性を有する半導体ヘテロ構造のナノワイヤの実現である。その作製法には、既存のSiデバイスと組み合わせるため、CMOS互換であることが求められている。ナノワイヤは、ボトムアップ気相-液相-固相(VLS)手法を用いて作製される場合、通常、金微粒子が触媒として使用されるため、これは通常のCMOSプロセスで許容されない。また、金は不純物としてナノワイヤに取り込まれる可能性も大きい。

ここでは、金微粒子を使用しない、1.1-1.6 μmの発光波長をもつ多層構造のInAs/InP系ヘテロ構造ナノワイヤの実現について報告する。我々は、インジウム粒子を用いた自己触媒法のVLS法を使用してこのヘテロ構造ナノワイヤを実現した[1-3][図1(a)、(b)]。成長温度を通常の半導体成長条件より低い320℃程度とした。この成長温度で、ヘテロ界面での原子拡散を押さえ、インジウム液滴内の貯留効果を弱めることにより、従来非常に難しいと思われていた原子レベルで急峻なInP/InAsの界面の形成を可能にした[図1(c)]。

VLS手法は、厚さの制御性が高いため、このヘテロナノワイヤの発光波長はInAs層の厚さの制御によって、1.3-1.5 μmの通信波長範囲をカバーすることができる。 ナノメートルオーダの空間解像度をもつカソードルミネッセンス(SEM-CL)を用いて、単一ナノワイヤの厚さの異なるInAs発光層の光学特性を評価した。図2はその結果で、厚さの異なるInAsがナノワイヤの特定の位置で発光し[図2(b)-(f)]、それぞれ異なるCLエネルギーを示し [図2(a)]、その波長は通信波長帯を含んでいる。自己触媒ヘテロナノワイヤは金微粒子を用いず、低温で作製可能であるため、既存のSiデバイスとの複合構造の実現が期待できる。

[1]
G. Zhang et al., Appl. Phys. Express 5, 055201 (2012).
[2]
G. Zhang et al., AIP Advances 3, 052107 (2013).
[3]
G. Zhang et al., Nanotechnology 26, 115704 (2015).

図1 (a)、(b) InP基板上に成長した多層ヘテロ構造もつInAs/InPナノワイヤのSEM像(tilt: 38º)。(c) InP/InAsヘテロ界面の高分解HAADF-STEM像。水平矢印は成長方向を示す。垂直矢印は界面の位置を示す。

図2 SEM-CL分析結果。(a) 単一InAs/InPヘテロナノワイヤの発光スペクトル。(b) 単一ナノワイヤのSEM像およびナノワイヤヘテロ構造の概念図。(c)-(f) 図(a) にある発光ピークの単色マッピング像。