走査型イオンコンダクタンス顕微鏡によるアポトーシス初期過程の神経細胞のライブイメージング

田中あや 住友弘二 中島 寛
機能物質科学研究部

 神経細胞が成長しネットワークを形成する過程で特有の形態変化を示すことが知られており、生きた細胞の経時的な形態変化を観察することは神経機能の理解に重要である。本研究では、神経ネットワーク形成過程において、ネットワークを構成する細胞数調整の役割を果たすアポトーシス(プログラム細胞死の一種)に注目し、アポトーシス初期過程の1細胞レベルの形態変化を走査型イオンコンダクタンス顕微鏡 (SICM)により観察することに成功した[1]。
 実験には、ラットの大脳皮質から取り出した初代神経細胞をガラス基板上で培養し、培養8~10日後にSICMによる形態観察を行った。アポトーシス誘導試薬であるスタウロスポリン(STS)を観察溶液に添加し、20分毎にイメージングを行うことでアポトーシスによる神経細胞の形態変化を観察した。
 SICMによる観察を行った結果、STS添加後、180分後に明瞭な球状突起物が観察された[図1(a)白矢印]。これらの構造は、アポトーシス初期過程で形成されるブレブと呼ばれる構造であると考えられる。形態観察結果をもとに、STS添加前の細胞体積に対する相対的な体積変化を検討した結果[図1(b)]、STS添加後60~120分で細胞体積の減少が起こり、その後再び上昇することが示された。以上から、アポトーシス初期過程では、最初に細胞収縮が起こり、その後ブレブ形成が起こる、という一連の形態変化を明らかにした。今後は、蛍光顕微鏡と組合せることで、生きた神経細胞の分子レベルの変化を同時に観察し、神経細胞の機能変化に伴う形態との相関性を解明することを目指す。

図1 SICMによるアポトーシス初期過程での神経細胞の形態観察結果。(a)STS添加後の神経細胞の形態像、(b)神経細胞の相対的な体積変化(v0はSTS添加前の細胞体積、vは各時間での細胞体積)。