流量変調エピタキシによる無極性m面AlNホモエピタキシャル層の表面形態制御

西中淳一 谷保芳孝 赤坂哲也 熊倉一英
機能物質科学研究部

 深紫外発光デバイスの材料として注目されているAlGaNは、無極性面上に成長することで、従来の極性面上と比較して内部量子効率や光取り出し効率を向上させることができる[1]。近年では高品質のm面AlNバルク基板を利用できるようになったが、その基板上に平坦なAlNホモエピタキシャル層を成長するためには、通常より高温で付着原子のマイグレーションを促進する必要がある[2]。一方、流量変調エピタキシ(FME)は原料の供給量を変調することでマイグレーションを促進する手法である[3]。本研究ではm面AlNのホモエピタキシャル成長においてFMEが表面形態に与える効果を調べた。
 有機金属気相成長法によりm面AlNバルク基板上にホモエピタキシャル成長を行った。原料にはトリメチルアルミニウム(TMA)とアンモニア(NH3)を用い、供給方法は連続供給、TMA間欠供給(III-FME)、NH3間欠供給(V-FME)、交互供給(A-FME)の4通りとした。
 例として、連続供給、V-FME、A-FMEで成長したm面AlNホモエピタキシャル層の原子間力顕微鏡像を図1に示す。原料の流量は同一であるが、供給シーケンスによって1サイクルの平均V/III比が異なる。平均V/III比が大きいほどaステップが現れやすく[図1(a)]、平均V/III比が小さいほど+cステップが現れやすい傾向にあった[図1(c)]。この違いはステップ端における未結合手の異方性に起因すると考えられる。適切な条件を選ぶことで図1(b)のようにきわめて平坦な表面を得られた。また、同一の平均V/III比で比較すると、V-FMEやA-FMEでは+cステップがバンチングしやすいことから、NH3を間欠供給することで付着原子のマイグレーションが促進されることが示唆された。このように、原料供給方法や平均V/III比の違いによって表面形態を制御できることがわかった。
 本研究の一部はJSPS科研費 JP25246022の助成を受けたものである。

図1 原料の供給シーケンスとm面AlNホモエピタキシャル層のAFM像。(a) 連続供給 (平均V/III比:8.8)、
(b) V-FME (平均V/III比:6.3)、(c) A-FME (平均V/III比:1.8)。