銅酸化物高温超伝導体の超伝導相と、それと競合/共存する他の秩序相とを統一的に理解することはいまだ未解決の課題である。その解決に向け、ホールドープ超伝導体YBa2Cu3O6.5純良試料における磁気量子振動(Quantum Oscillations, QO)の初観測[1]以降、QOの研究を通してフェルミ面のトポロジーとそのキャリアドーピングによる変化を直接調べる努力がなされてきた。本研究では、電子ドープ銅酸化物超伝導体Pr2-xCexCuO4(x = 0.14)(PCCO)でのQOの観測と、フェルミ面のトポロジーおよび伝導電子の有効質量の決定に取り組んだ[2]。試料中の電子の平均自由行程を最大化するため、測定には、MBE法を用いてSrTiO3基板上に成長したPCCO薄膜をアニール処理した超高品位試料を用いた[3]。測定の結果、92 Tまでの超高磁場下でシュブニコフ・ド・ハース振動QOが観測され [図1(A)]、PCCOが小さなポケット構造のフェルミ面(255 T)をもつことと、そこでの準粒子有効質量がm* = 0.43meと軽いことがわかった。さらに、平均フェルミ速度(vF = 2.4×105 m/s)も直接決定できた。一方、2 Kでのホール伝導度(0.9×10–9 Ωm/T)から、放物線型単一バンドを仮定して見積もられる電子のキャリア密度は、CuO2面1枚当たり0.66となる[図1(B)]。フェルミ面の再構成を示唆する小さいフェルミポケット[図1(C)]は、元素置換を行っていないPr2CuO4薄膜でも観測されており[4]、平面四配位Cuを有する電子ドープ銅酸化物超伝導体に普遍的な特徴であると考えられる。
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図1 (A) PCCO超伝導薄膜の磁気抵抗。2-30 Kの温度で磁場は92 Tまで掃引した。(B) ホール効果測定および(C) QOから見積もられた2次元フェルミ面(赤線)(それぞれ、ブリルアンゾーンの43、0.97%に当たる)。 |