フォノンによるイジングモデルのシミュレーション

Imran Mahboob 山口浩司
量子電子物性研究部

 原子やイオン、光子や電子などの物理系による計算手法の重要性が高まりつつある[1]。本研究では新しい物理系として圧電電気機械共振器におけるフォノンを用いることを提案する[2]。具体的には、結合機械共振器[図1(a)]の対称・反対称モードにおけるパラメトリック振動の2つの位相状態を1/2スピンに対応させる[図1(c)、(d)]。ふたつのモード間の相互作用を非縮退パラメトリック増幅により導入することによりスピン間の相関を作り出す[図1(b)]。これによりイジングスピン間の強磁性・反強磁性相互作用を自在に制御することが可能である。これらの結果はイジングモデルを電気機械システムによりシミュレーションできることを示しており、さらなる多重化により、これまでのコンピュータを凌駕する高速の演算の可能性が期待される[3]。
 本研究の一部はJSPS科研費JP15H05869の助成を受けたものである。

図1 (a) 実験に用いた素子の電子顕微鏡写真。2つの梁の対称ならびに反対称振動を2つの1/2スピンとして用いる。(b) 2つのモードの熱振動が、非縮退パラメトリック増幅により相関している状態の概念図。PiならびにQiは、i 番目の振動モード(i = 1,2)の正弦ならびに余弦成分を示す。P1Q2の間の強い相関が確認される。(c および d)それぞれの振動モードを縮退パラメトリック励振したときの振動状態の概念図。パラメトリック励振により2重井戸型ポテンシャルが形成され、この2つの状態が上向きならびに下向きスピンに対応する。 それぞれの右図は、パラメトリック励振を行ったときの振動の位相状態の変化を示す。ポテンシャルの山が熱エネルギーkBTより大きくなった段階で、スピン状態は固定される。