電解質ゲートに起因する不純物散乱のグラフェン伝導による評価

熊田倫雄1 Andrew Browning1 関根佳明2 入江 宏1 村木康二1 山本秀樹2
1量子電子物性研究部 2機能物質科学研究部

 電解質ゲート構造は、その大きな静電容量、柔軟性等の利点により、多くの材料に対して用いられている。しかし、その構造に由来した不純物の増加などの欠点はほとんど評価されていない。本研究では、グラフェンにイオン液体を適用し、電気伝導測定により不純物散乱の影響を評価した[1]。
 SiC上に成長されたグラフェンをHall bar形状に加工した試料を用いた。電解質ゲートを用いた試料と、通常の金属ゲートを用いた試料の結果を比較することにより、イオン液体が電気伝導度に与える影響を調べた。イオン液体としてEMIM-TFSIを用い、グラフェンとCr/Auゲートを覆うように塗布した[図1(a)]。温度4 Kにおいて、電荷中性点を含む広いキャリア密度領域で実験した結果、通常の金属ゲートを用いた試料と比べて、電解質ゲートを用いた試料では移動度が大きく減少することがわかった。伝導度はキャリア密度に対して比例しており[図1(b)]、これは荷電不純物による散乱が支配的であることを示している。その傾きから求められた荷電不純物密度は、グラフェンから距離1 nmに分布していると仮定した場合に6 × 1012 cm–2であり、これにより低温での移動度は3 × 103 cm2/Vsに制限される[図1(c)]。また、室温ではフォノン散乱の影響で移動度の最大値は2 × 103 cm2/Vs程度となることを示した。電解質ゲート構造に由来する不純物の量は、適用される材料に依存するものではなく、我々の結果は、どういった用途に電解質ゲートが適しているかを判断するために重要な情報を与える。

図1 (a) 試料構造。灰色がグラフェン、水色がイオン液体。(b)および(c) 金属ゲート試料(青丸)とイオンゲート試料(赤丸)における伝導度と移動度のキャリア密度依存性。