超伝導体を近接させたバリスティック2次元電子系における準粒子のコヒーレント伝導

入江 宏1 Clemens Todt1 熊田倫雄1 原田裕一1 杉山弘樹2 赤﨑達志1 村木康二1
1量子電子物性研究部 2NTT先端集積デバイス研究所

 近年、半導体における超伝導近接効果を利用した新奇量子相の探索[1]や新機能素子の開発[2]が精力的に行われている。超伝導体と半導体の界面では、アンドレーエフ反射によって生成されたボゴリューボフ準粒子が電荷輸送を担っており、その制御および検出技術の重要性が高まっている。本研究では、超伝導体に近接した高移動度2次元電子ガス(2DEG)における準粒子の輸送特性を調べた[3]。試料は超伝導Nb電極とIn0.75Ga0.25As-2DEGの接合であり、Nb/InGaAs界面の直近に量子ポイントコンタクト(QPC)をもつ[図1(a)]。試料サイズに比べ平均自由行程が十分長いため、準粒子はバリスティックに伝搬すると考えてよい。QPCを通ってNb/InGaAs界面に入射した電子は、アンドレーエフ反射によって自身の時間反転粒子である準粒子正孔となり、入射前に辿った軌道を正確に引き返しQPCに帰ってくる。このとき、QPCの透過率が高ければ、準粒子正孔がQPCを透過するため微分電気伝導度は増大する。我々の実験では、透過率TQPCが1の場合に単一チャネルあたりの伝導度が量子化値e2/hを超えることが確認された[図1(b)]。一方、QPCの透過率が十分低い場合、準粒子はQPCとNb界面の間に閉じ込められ、アンドレーエフ束縛状態(ABS)と呼ばれる量子準位を形成する。また、透過率の低いQPCは、トンネルプローブとしてABSの検出にも用いることができる。図1(c)にTQPC = 0.2における微分伝導度スペクトルを示す。ABSへの共鳴トンネルを反映して、超伝導ギャップ内に一対のピーク構造が観測される。ピーク位置は0.29Δ0Δ0:Nbの超伝導ギャップ)であり、バリスティック接合の理論モデル[4]と良い一致を示した。以上の結果は、超伝導体と結合したバリスティックな2DEGにおいて、準粒子がコヒーレンスを保ちながらアンドレーエフ反射していることを示している。

図1 (a) 試料構造。QPC-Nb電極間距離Lchは220 nm。(b,c) QPCの透過率が(b) 1および(c) 0.2の場合に得られる微分電気伝導度スペクトル。網掛け部分はNbの超伝導ギャップ(1.3 meV)を表している。