NTT物性科学基礎研究所 瀧口 耕介

研究領域

手法

Molecular Beam Epitaxy (MBE)とElectron Impact Emission Spectroscopy (EIES)

分子線エピタキシー(MBE)によって新規材料の探索を行っています。電子銃によって供給される元素フラックスはEIESセンサーによって精密な測定が可能です。

これまでの研究

酸化物材料における磁性ワイル半金属

SrRuO3 は半世紀以上の長い歴史をもつ強磁性ペロブスカイト酸化物である。我々は機械学習援用分子線エピタキシーを用いてSrRuO3の最高品質薄膜の結晶成長に成功した。この試料の磁気輸送特性を詳細に調べたところ、トポロジカル物質の一種であるワイル半金属である証拠を得た。酸化物材料におけるワイル半金属の発見はこれが初となった。

K. Takiguchi, Y, K. Wakabayashi, et al., Nat. Comm. 11, 4969 (2020)


非磁性・強磁性半導体ヘテロ接合における近接磁気抵抗効果

高移動度チャネル中に磁性カップリングを導入するのは、スピントロニクス分野において重要な研究対象の一つである。本研究では非磁性InAs量子井戸/強磁性半導体GaFeSbのヘテロ接合を分子線エピタキシーによって作製し、新規磁気抵抗効果を発見した。GaFeSbの抵抗率はInAsよりずっと高いため、面内方向を流れる電流はInAsのみを流れる。一方でInAsの電流を担う波動関数は強磁性GaFeSb側に染み出すことによって、部分的に磁化される。これを磁気近接効果とよぶ。InAs/GaFeSbにおける磁気抵抗効果は磁気近接効果を反映して、これまで見られなかった磁場角度依存性や大きな磁気抵抗効果を発現した。磁気近接効果に由来するこの効果を近接磁気近接効果と名付けた。本効果はゲート電圧によって変調可能となるが、これは磁気近接効果が電圧によって変調可能であることを表している。

K. Takiguchi,et al., Nat. Phys. 15, 1134 (2019)
K. Takiguchi,et al., Phys. Rev. B 105, 235202 (2022)


非磁性・強磁性半導体ヘテロ接合における巨大奇パリティ磁気抵抗効果


物質の電気抵抗は、通常外部磁場に対して偶関数としてふるまう。一方で特殊な対称性の破れを有する場合には、奇関数成分が生じる場合がある。これを奇パリティ磁気抵抗効果と呼ぶが、これまでの結果ではたかだか1%程度と小さい効果であった。本研究では、InAs/GaFeSbにおける時間反転対称性と空間反転対称性の破れに着目し、27%という最大の奇パリティ磁気抵抗効果の観測に成功した。対称性の破れは、物質の原理的なパラメータのひとつであり、このように大きな物理応答を得たことは、幅広い分野に大きなインパクトを与えると考えられる。
K. Takiguchi,et al., Nat. Comm. 13 6538 (2022)