MgB2を用いたジョセフソン接合の作製

植田研二 牧本俊樹
機能物質科学研究部

 2001年に超伝導が見出されたMgB2は超伝導転移温度(Tc)を39Kに持ち、金属系超伝導体の中では最もTcが高い化合物である [1]。現在、発見から4年程度が経過しており、超伝導発現機構については2ギャップ超伝導でコンセンサスが得られており、線材、エレクトロニクス等の超伝導応用の側面から盛んに研究が行われている。
 超伝導エレクトロニクス応用の中核部となるのはジョセフソン接合(特にSISトンネル接合)であるが、ジョセフソン接合には現在Nb(Tc=9K)が主として用いられており、使用する際には液体ヘリウムで冷却する必要がある。一方、MgB2はTcが39Kと高く、トンネル接合に用いられれば液体ヘリウムが不要となり、冷却コストを削減できるとともに装置の取扱いも容易になる。また、高いTcを有する銅酸化物高温超伝導体を用いて液体窒素温度(77K)以上で動作するトンネル接合を作製する試みも盛んに行なわれてきたが、発見以来20年近く経過した現在でもトンネル接合の界面制御性に課題があり作製手段が確立していない。この為、MgB2がトンネル接合用の材料として注目されていた。
 我々はMBE法を用い作製したas-grown MgB2薄膜[2]を用いてSISトンネル接合(MgB2/AlOx/MgB2)を作製する事に成功し(図1)、20Kで超伝導電流を世界で初めて確認した(図2)[3]。これは人工的に作製したトンネル接合では現在最高温度での観測であり、液体ヘリウムを使わずに市販の冷凍機で容易に到達可能な温度である。
 今回作製した超伝導トンネル接合は、接合品質改善、特性の再現性向上等の課題は存在するが、今回の結果はMgB2の超伝導エレクトロニクス応用に向けての重要な1ステップである。

[1] J. Nagamatsu et al., Nature 410 (2000) 63.
[2] K. Ueda, M. Naito, Appl. Phys. Lett. 79 (2001) 2046.
[3] K. Ueda, S. Saito, K. Semba, T. Makimoto, M. Naito, Appl. Phys. Lett. 86 (2005) 172502.

図1.
MgB2トンネル接合の電流-電圧特性(測定温度は4.2K)
図2
MgB2接合における超伝導電流の温度依存性、挿入図は20Kでの電流-電圧特性


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