分散シフトファイバ中の自然放出四光波混合を用いた
通信波長帯偏波もつれ光子対の発生

武居 弘樹
量子光物性研究部

 1.5 μm帯における量子もつれ光子対の発生は、光ファイバ網を用いた量子情報通信実現のための重要な技術である。我々は、ループ状に構成した分散シフトファイバ(DSF)中の自然放出四光波混合(SFWM)過程を用いて、1.5 μm帯偏波もつれ光子対を発生することに成功した[1]。
提案手法の構成を図1に示す。ポンプ光パルスの偏波状態を偏光子により45°の直線偏波に設定し、偏波ビームスプリッタ(PBS)及びDSFにより構成されたループに入力する。ポンプ光はPBSにより横偏波(H)及び縦偏波(V)成分に分離され、それぞれループを左回り、右回りに伝搬し、DSF中のSFWM過程を介してシグナル-アイドラ光子対 | ‌H >s|‌H >i 、| ‌V >s|‌V >iを発生する。PBSの出力ポートにおいてこれらの状態が重ね合わされ、偏波もつれ状態(| ‌H >s|‌H >i + | ‌V >s|‌V >i )/√2を得る。
 DSFの零分散波長1551 nm付近に中心波長を持つパルス幅20 psのポンプパルスをループに入力した。ループ出力光は、Fiber Bragg grating (FBG)によりポンプ光成分を抑圧した後、Arrayed waveguide grating (AWG)及び光バンドパスフィルタ(BPF)により、シグナル光子とアイドラ光子に分離した。シグナル及びアイドラ光子は、分離後の経路において同じ偏波変化を被るよう偏波調整し、偏光子を通過させた後、光子カウンタに入力して同時計数率を測定した。 アイドラ側の偏光子を固定し、シグナル側偏光子の角度を変化させて同時計数率を測定したところ、明瞭度90 %以上の二光子干渉波形を得た(図2)。また、ベル不等式のテストを行い、標準偏差の7倍の大きさで不等式の破れを観測した。さらに、20 kmの光ファイバ伝送の後にも二光子間に量子力学的相関が保持されていることを確認した。
 本成果は、光ファイバ網を用いた高度な量子通信網実現のための重要な1歩である。
[1] H. Takesue and K. Inoue, Phys. Rev. A, 70, 031802(R) (2004).
図1 提案手法の構成   図2 二光子干渉波形

 


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